通貨高とは無縁だったドイツ企業

 不調をきたしているとはいえ、世界3位(昨年までは4位)の経済大国であるドイツにとって、「ユーロが高過ぎる」と感じる状況は起こりようがなく、ドイツ企業による対外直接投資(端的には海外生産移管)の加速を説明する要因として説得力は乏しい。

 ギリシャやイタリアも含めてユーロである以上、ユーロがドイツにとって強過ぎると感じるほど上昇することは理論的に想定されないはずである。

 裏を返せば、仮にドイツ国内の製造業が対外直接投資を検討せざるを得ないほどユーロ高が進んでいる場合、もっと早いタイミングでイタリアを筆頭とする南欧諸国から悲鳴が上がっていなければおかしい。

 歴史的にはイタリアやフランスはユーロ高に対して苦情の声を上げる場面が良く見られてきた印象があるものの、今のところ、そのような状況には至っていないようである。

 図表②はECB(欧州中央銀行)が四半期に一度公表する対外競争力指数(HCI)だ。これは端的にはユーロ加盟国別で確認する実質実効為替相場(REER)であり、ここでは近年注目される人件費に着目する意味から単位労働コスト(ULC)で実質化している。

【図表②】

ユーロ圏加盟国の対外競争力指数ユーロ圏加盟国の対外競争力指数
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 図示されるようにドイツのHCIはユーロ導入後、基本的には低位安定している。導入後の急騰を経て、後に欧州債務危機を経験した南欧諸国などと比べれば、ドイツの国内製造業は長い間、安定的に安い通貨を享受してきたと考えられる。