原爆裁判でよねが浮かべた涙の意味

 一方、明律大卒業から30年余が過ぎた寅子はすっかり成長した。右陪席(次席)裁判官を務めた原爆裁判では鑑定人の国際法学者に対し、こう質問した。113回だ。

「米国にも国にも賠償を求められぬ場合、今苦しんでいる被爆者はどこに助けを求めればいいとお考えですか」

 鑑定人は何も答えなかったが、原告代理人であるよねの顔色が変わった。質問を評価したからだ。

 よねは辛酸を舐めた自分と違い、苦労知らずで育った寅子をどこかでみくびっていた。だが、寅子も弱者の立場になれるようになった。よねの寅子への見方が変わってきた。

 よねも成長した。原告の1人である吉田ミキ(入山法子)が証人台に立とうとしたところ、当初は自己責任と考え、本人の意思に任せようとした。証人がいたほうが裁判にも有利だ。

朝ドラ「虎に翼」公式Xより
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 しかし、止める。吉田は被爆によって乳腺まで焼けてしまい、赤ん坊に乳をあげられなかった。また、被爆後は流産を繰り返したためだ。傷つき過ぎている。

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「止めましょう。声を上げた女にこの社会は容赦なく石を投げてくる」(よね)

 よねは勝ちより吉田を守ることを考えた。

 115回で敗訴したとき、よねは目を真っ赤にしていた。負けて悔しかったからではないだろう。被爆者を救えなかったためだ。