指紋の採取、DNA型鑑定、防犯カメラの増設など、技術革新によって警察の捜査能力は劇的に向上している。もっとも、テクノロジーの進化のみならず、取り調べや職務質問、各地域の警察の連携など、テクニックやシステムの面でも警察は日々改善を図り、能力を向上させている。
果たして警察はどんな工夫をしているのか。『刑事捜査の最前線』(講談社)を上梓した共同通信編集委員の甲斐竜一朗氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──優秀な取調官の、取り調べテクニックについて複数記述されています。優秀な取調官はどのように取り調べをするのでしょうか?
甲斐竜一朗氏(以下、甲斐):優秀な取調官は、怒鳴ったり、厳しく追及したりはせず、一見穏やかで、容疑者に対して真摯に向き合う人たちが多いようです。
私も以前はよく、夜討ち朝駆けで事件の被疑者の取り調べをする取調官に話を聞きにいきました。その分野で有能と言われる方々です。
──「この事件はこの人が取調官をしている」と事件記者は知っているものなのですか?
甲斐:今はもう分からないと思います。以前は、警視庁や大阪府警など、巨大組織の中の一つの殺人事件の調査班は10人くらいで構成されていて、誰が取り調べをやっているかと班長や課長に聞くと教えてくれることがありました。しかし、話を聞きに行っても、取調官が取り調べの状況を話してくれることはまずありません。
それでも根気強く聞いていくと、ごく稀に話してくれる取調官もいます。そういう方は、「自分の取り調べが捜査を動かしている」という強い自信を持っている方です。少々マスコミに話しても、捜査がかき乱されることはないと考えているのでしょう。
とはいえ、もちろん秘密の暴露にあたるような情報は明かしません。マスコミが書くと、捜査に支障をきたすようなことも話しません。ただ、もし私とその取調官の間にとても信頼関係がある場合は、書いていいことと書いてはいけないことを説明しながら、取り調べの状況を詳しく教えてくれる場合もあります。
──よく「マスコミが警察のリークを書く」などと言われますが、容疑者を追い詰めるために、警察が意図的にマスコミに情報を放つことはありますか?
甲斐:「リーク」という形はほとんどありません。これは本にも書きましたが、警察がもう犯人が分かっていて、でも犯人を任意同行するだけの証拠が十分にない場合に、被害者の身元の情報などをマスコミに書かせて、被害者の身近にいた犯人の動揺を誘った、ということが過去にありました。
ただ、これは公式にやったことで、リークという形で試験的に試したということではありません。基本的に捜査幹部は、自分たちが発表した以外のことをマスコミに書いてほしくないのです。
──容疑者の友人や知人にも聞き取り調査を入念に行い、相手がどういう人生を歩んできたのかよく調べて、取り調べでその情報を出していく取調官もいると書かれていました。
甲斐:そうです。容疑者がよく行くスナックがあればそこに頻繁に通って、ボトルを入れ、カラオケを歌うなどしてマスターと仲良くなり、信頼を得て、捜査側に引き入れて容疑者の情報をさらに聞いていく。そこまでやる取調官もいます。