相異なる選択肢

 以上のような政策に、トランプは猛反発している。その基本は「小さな政府」であり、政府の介入をできるだけ減らし、規制を解除して企業の自由な活動を促進する、法人税率も15〜20%に下げる。また、アメリカ第一主義で、全ての輸入品に10%の関税を課して、それをアメリカ経済支援策の財源にするという。これは対中国政策の一環でもある。

 経済財政政策は全く逆方向である。それに加えて、ハリスとトランプ、民主党と共和党では、多くの分野で政策の方向が大きく異なっている。

 たとえば、ウクライナ戦争や中東紛争への対応である。トランプは、自分が大統領になったら、即座にウクライナでもガザでも戦争を終わらせると言う。同盟国に対しても応分の負担を求め、NATOの形骸化すら念頭に置く。これに対して、バイデン政権は欧州、日本、韓国、オーストラリアなどの同盟国との連携を強化し、ロシアや中国の脅威に対抗しようとする。

 移民問題については、民主党が合法的移民を拡大することを是とするのに対して、トランプは国境に壁を建設し、移民の制限を図る。

 気候変動対策については、民主党が再生可能エネルギー導入などを含めて積極的なのに対し、共和党は化石燃料の採掘と利用の拡大を目指す。

 人工妊娠中絶に対しては、民主党は全米で認めるのに対し、共和党は各州の自主的な判断に任せるとしている。LGBTQについても、同様な姿勢である。

 また、医療については、民主党が国民皆保険の導入に前向きなのに対して、共和党は反対である。

 以上のように、二つの党の政策は対極的な面が多い。したがって、政権交代になると、アメリカの政策が大きく変わり、世界中が戸惑うことになる。

 アメリカは二つに分断されている。奴隷制度、そして貿易政策をめぐって、アメリカでは1861〜1865年に南北戦争が勃発した。そのときに北部を指導したエイブラハム・リンカーンは、「分かれたる家は立つこと能わず(A house divided against itself cannot stand)」と1858年6月17日に述べている。

 南北戦争は北軍の勝利に終わり、アメリカの分断は避けられた。しかし、戦死者数は60万人にのぼり、これは第一次世界大戦(11万人)、第二次世界大戦(32万人)、ベトナム戦争(5万8000人)を超えて、アメリカ史上最大である。

 2021年1月6日、バイデンがトランプに勝利した前年の大統領選挙で不正があったとして、トランプ支持者が国会議事堂を襲撃した。このような事件が再び起こってはならない。

 今回の大統領選挙は、アメリカの再統合を目指すものでなくてはならない。リンカーンの言葉を思い出すべきである。

【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)『都知事失格』(小学館)『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(ともに小学館新書)『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。