ハイリスクハイリターン、乾坤一擲の大作戦
この奇襲作戦はハイリスクハイリターンの攻撃であった。
つまり、ウクライナにとって厳しい戦況を劇的に好転させる可能性があるが、大失敗する可能性もある大胆で向こう見ずな作戦であった。
しかし、私はウクライナがクルスク奇襲作戦を行ったことを高く評価している。
政治的にこの奇襲を行わざるを得なかったし、作戦・戦術的に短期的な成功の可能性があったからだ。
もし、ウクライナがこの奇襲作戦を行わなかったならば、「ジリ貧」のまま苦しい状況がずっと継続していたであろう。
攻撃が開始された当初、世界の多くの軍事専門家が「この奇襲作戦はリスクが大きすぎる」と批判した。
なぜなら、ウクライナ東部の要衝でロシア軍の攻撃がウクライナ軍を苦しめていたからだ(図4参照)。
特に、アウデイイウカ正面のポクロウスク付近、バフムト正面のチャシウ・ヤールやトレツクでは、ウクライナ軍は危機的な状況にあった。
ウクライナ軍には兵員数が少なく予備兵力が貧弱であり、弾薬も劣勢にあるという弱点がある。
「本来ならば、危機的状況にある東部戦線に予備戦力を充当すべきだ」という意見が有力だが、その貴重な予備戦力をクルスク州に投入したのだ。
クルスクでの戦いが順調にいかなければ、東部戦線も失敗するという関係にあった。
図4:ロシア軍が重視する東部戦線の要衝
8月22日現在、クルスクでの作戦は順調にいっているために最悪の事態を回避できている。
しかし、今後のロシア軍の反撃に適切に対応するなど、多くの解決すべき問題があるのも事実であり、ウクライナの真価が問われるし、米国等のウクライナ友好国のさらなる支援が不可欠である。