犯人らはインターネットの情報に基づいて、ベトナムに密入国して就労しようとしていた。中国のインターネット上には、怪しげな求人が多数存在する。ベトナムと中国は陸路で接しており、山岳地帯の小道を利用すれば容易に密入国できる。

カンボジアの密林は無法地帯、中国人犯罪組織のアジトも

 もう一つ、この事件からカンボジアにあるとされる中国人犯罪組織が浮かび上がってくる。

 カンボジアの治安当局はベトナムに比べて弱く、密林は無法地帯になっており、そこに中国人犯罪組織のアジトがあるとされる。アジトから中国本土に「オレオレ詐欺」の電話をかけている。多くの中国人が監禁されて、劣悪な条件で働かされていると噂されていた。

カンボジアの密林地帯(資料写真/出所:Pixabay)

 犯人らはクアンガイ省のあたりで、就職を斡旋するという話が罠であることに気付いたようだ。中国人犯罪集団によってカンボジアに売り飛ばされることを恐れた。犯人らはタクシーのチャーター代金を手配師からもらう約束になっていたが、もらうことができなかった。その結果、タクシーの代金を巡って運転手と争いになり殺害したと思われる。その後、奪ったタクシーで北上して中国に戻ろうとしたが、稚拙な運転をしていたために警察官に発見されて、逮捕された。

東南アジア大陸部は「中国の治安のカナリア」

 中国の若年失業率の高まりは日本でも報道されているが、この3人の行動を見るにつけ、状況は我々が思っている以上に深刻であるようだ。

 この3人は年齢から考えて中卒か高卒、いわゆる農民工である可能性が高い。ベトナムで働く予定の就職先は、おそらく中華系の工場だったのだろう。中国の失業問題は、大学を卒業した若者がブルーカラーとして働くことを嫌うために生じていると言われているが、農民工が中国でブルーカラーとして働くことも難しくなっている。