自供によれば、不審に思った3人はこのままではカンボジアに売られてしまうと考えて、タクシー運転手を殺害し、自分たちで運転して中国に戻ろうとした。自供には曖昧な点も多く警察はさらに取り調べを続けているが、この事件はベトナムで広く報道されてベトナム人の対中感情を一層悪化させることになった。

中国で働けない若者が東南アジアで不法就労

 この一連の出来事は、現在の中国と東南アジアとの関係をよく表している。

 中国では若者の失業が深刻な問題になっている。犯人らは中国での就労が難しいために、不法入国してベトナムで働こうとしていた。

 またこの事件の背後には、東南アジアで暗躍する中国人犯罪組織の存在がある。ベトナムではこれまでにもたびたび中国人の不法就労が問題になっていた。

 現在、中国からベトナムに入国するにはビザが必要である。新型コロナが蔓延する2020年春頃まで、ベトナムは中国人観光客で賑わっていた。その頃までは、観光目的ならばビザなし渡航できた。コロナ禍によってビザが必要になったが、ベトナムはコロナが収まってからも中国人にビザの取得を要求している。ベトナムも日本と同様に、コロナ禍が終焉した後に中国人観光客が戻ってくることを期待していた。だが観光客の戻りは鈍く、その一方で不法就労や犯罪が多発したためである。

 ちなみに、現在、日本人はビザなしで45日までベトナムに滞在することができる。ベトナム政府は中国人と日本人を全く違う存在として見ている。