あなたの職場も無縁ではない?
特定秘密保護法の特定秘密を取り扱えるのは、約3万人で民間人は3%程度にとどまっています(2022年末現在)。しかし、新法は経済分野をターゲットとしているだけに、適性評価の対象者となる人は圧倒的に民間人が多いと想定されているのです。
米国では、このセキュリティー・クリアランスの保持者は約400万人おり、そのうち3割は民間人とされています。高市大臣は国会で「数千人程度」と答えていますが、日本でも米国と同じ程度の割合で民間人が秘密の取扱者になる可能性があります。
秘密保護法の仕組みと同様に、適性評価の対象となるのは本人だけではありません。その配偶者や父母らも調査対象になるのです。
重要経済安保情報を漏洩した場合には罰則もあります。情報を漏洩した者は拘禁刑5年以下・罰金500万円以下の刑罰を科されます。未遂のケースも処罰されるほか、教唆や扇動も処罰対象。情報を漏らした民間人が勤務する法人も罰金刑の対象です。
特定秘密の漏洩に関しては刑事告発に至ったケースが過去に2例あります。
1つは2022年に発覚したもので、海上自衛隊の1等海佐が大物OBに情勢説明をした際、特定秘密を漏らしたというもの(特定秘密保護法違反で書類送検、後に不起訴)。
もう1つは2024年4月に発覚した事件で、陸上自衛隊の2等陸佐が訓練中に適性評価を受けていない部下に特定秘密を伝えたという事案など5件です(被疑者5人は陸自の警務隊に刑事告発。捜査中)。
厳しい訓練を経ている自衛隊幹部でも時として特定秘密を漏らしてしまう。そんな世界に民間のビジネスパーソンはどこまで対応できるのでしょうか。
民間企業からはすでに「適性評価にきちんと対応できれば安定的な事業展開と収益が望める」といった歓迎の声の一方で、適性評価にパスできなかった人は企業内で不当な配置転換を受けたり、降格されたりするのではないかとの危惧も出ています。また、当のビジネスパーソンの身内が知らぬうちに政府当局から身辺調査されることへの不安も出ています。
政府は新法の施行までに運用面の細部を煮詰める方針を示していますが、「重要経済安保情報」をめぐる動向は、あなたの職場とも密接に関係してくるかもしれません。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。