施行から10年を迎える特定秘密保護法が大きく姿を変えようとしています。同法は防衛・外交などの分野で「特定秘密」を守る仕組みですが、経済分野の情報も秘密の対象とする「重要経済安保情報保護法」が2024年5月に成立し、1年後に施行されることになったからです。新法は先発の秘密保護法と連動して運用される見込みで、政府によって民間人の“身辺調査”が行われると懸念する声も出ています。秘密保護をめぐる新たな仕組みとは、どのようなものでしょうか。問題点はないのでしょうか。やさしく解説します。
元祖「特定秘密保護法」成立の経緯は?
特定秘密保護法は大議論の末、2013年12月に成立し、1年後の2014年12月に施行されました。
この法律は、国家の安全保障に関連した重要情報のうち、秘匿性が高いと判断された情報を各機関の長(大臣など)が「特定秘密」に指定し、その情報が流出しないようにする目的で作られました。対象は「防衛」「外交」「特定有害活動の防止(スパイ防止)」「テロ防止」の4分野です。
では、どのような情報が特定秘密に指定されるのでしょうか。法律で明示されているのは「自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究であって外国の軍隊との運用協力に関するもの」「外国の政府又は国際機関から提供された情報」など全部で57項目に達します。
一方、特定秘密を取り扱う政府機関は、国家安全保障会議(日本版NSC)をはじめ、内閣官房、内閣府、防衛省、外務省、経済産業省、警察庁、出入国在留管理庁など計13機関を数えます。
内閣官房によると、2024年6月末現在、特定秘密に指定された情報は合計789件に達しています。前年12月末に比べて38件増えました。
項目で多かったものは「防衛の用に供する暗号:我が国の政府が用いるために作成された暗号」(85件)、「自衛隊の潜水艦、航空機、センサー、電子戦機器、誘導武器、情報収集機器又はこれらの物の研究開発段階のものの仕様、性能又は使用方法」(68件)といった防衛分野の情報、および外交交渉の秘密に関するものです。政府機関別では防衛省の449件が最多。次いで内閣官房の126件でした。
もっとも、特定秘密の指定状況が明らかにされるのは、ここまで。57項目をさらに細分化したカテゴリは公にされていませんし、どんな情報が指定されたかの具体名も明らかにされません。「何が特定秘密されたか」という情報そのものが秘密にされているわけです。
特定秘密保護法制定時の国会で大論争となったのも、この点でした。機密情報の取り扱いに万全を尽くさないと、国家の安全や同盟国との信頼関係が損なわれるという政府側の主張に対し、野党や研究者は「指定の基準が甘かったり、恣意的に運用されたりしたら、政府にとって都合の悪い情報も特定秘密の名の下で秘匿されてしまう」と懸念したのです。