仕事と家事・育児を柔軟交換、「夫婦役割4.0」へ

 これまでの駐在員の配偶者に関する先行研究は、女性が中心に取り上げられてきた。海外に駐在員として派遣されるのは、男性に偏りがちだったためであり、その配偶者が異文化に適応していく様子やキャリア中断に直面した葛藤、帰国後の再就職の難しさなどに関する研究が積み上げられてきた。国外論文に目を転じると、同行男性に焦点を当てた研究が1990年代後半から登場しているのが確認できるものの、極めて寡少だ。

 しかしながら、日本でもここ数年、男性の帯同者も増えている。2014年以降、休職制度が浸透したことによって、職を失う心配がなくなった女性(妻)が男性(夫)の赴任に同行するためのハードルは間違いなく下がったことだろう。他方、駐在員となった女性(妻)に男性(夫)が同行しやすくなるという結果をもたらすことにもなった。

「男性駐在員と女性同行配偶者」に限られていた駐在員夫婦の形態が、その逆のパターンを生み出し、新たなロールモデル化が進んでいる。

 先に紹介した大嶋は、夫と妻が仕事と家事・育児の役割を柔軟に交換したり、分担したりする「夫婦役割4.0」が今こそ求められていると指摘する。稼ぎ手が1人に限定されることで生じかねないリスクの分散や、片方が一時的にキャリアをセーブしながら起業や転職を考える時間を捻出できること、家事・育児などの仕事以外の役割を担うことができるというメリットがあると強調する。

 これを駐在員夫婦に当てはめて考えてみると、これまでは女性に偏っていたキャリアの一時的なセーブが、男性にも及び、弾力的に役割を交換したということになろう。女性駐在員と帯同した男性は、夫婦間の性別役割分担において、新たな夫婦のスタイルを既に確立しているというのは、決して過言ではないのではないか。

 しかしながら、これらについて言及した国内の研究は、見当たらなかった。

【後編】
妻の海外赴任について行った「駐夫」の葛藤…目の前のレールを走り続ける「男の闇」と決別したワケ