お盆が過ぎ、子どもたちの夏休みもあっというまに後半戦だ。夏の終わりに宿題に焦るというのは、いまも昔も変わらぬ「あるある」だろう。子どもたちの学習に、親はどう向き合うべきなのか。「子どもをご褒美で釣るのはOK?」「宿題してお小遣いを与えるのはアリ?」そんな悩みは実際のところどうなのか。教育の費用対効果をデータに基づいて分析する教育経済学の専門家、中室牧子氏(慶應義塾大学総合政策学部・教授)がわかりやすく解説する。
(*)本稿は『学力の経済学』(中室牧子著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・再編集したものです。
<前編>夏休みの宿題を休みの終わり際にやった人の傾向…なぜ、喫煙、ギャンブル、酒、借金、肥満の確率が高くなるのか?
「目の前ににんじん」作戦を経済学的にひもとく
「子どもを勉強させるために、ご褒美で釣ってはいけないのか」
これは、子育て中の友人たちからもっとも頻繁に受ける相談です。「にんじんをぶら下げれば勉強するんだったらそれでいいじゃないか」という考え方もあるのかもしれません。しかし、ご褒美で子どもを釣らなければ勉強させられないなんて、親として失格なのではないかと、密かに悩んでおられるご両親も多いようです。
実は、経済学はこの問いについて、科学的根拠に基づく答えを持っています。そもそも経済学とは、「人々が(ご褒美のような)インセンティブ(人の意欲を引き出すために与える刺激のことを指す)にどのように反応するか」を明らかにしようとする学問なのです。
どの家庭でも、親は子どもに勉強させようとあの手この手を尽くします。
「今ちゃんと勉強しておくのが、あなたの将来のためなのよ」
後で詳しく述べますが、おそらく多くのご両親が口にしたことがあるはずのこの言葉は、経済学的にも正しいことが明らかになっています。子どものころにちゃんと勉強しておくことは、将来の収入を高めることにつながるのです。