“目の前の”ご褒美に弱い

 経済学には「教育の収益率」という概念があり、「1年間追加で教育を受けたことによって、その子どもの将来の収入がどれくらい高くなるか」を数字で表します。そして、教育投資への収益率は、株や債券などの金融資産への投資などと比べても高いことが、多くの研究で示されています。

 今ちゃんと勉強しておけば、将来の収入が高くなることは数字で示されているにもかかわらず、なぜ子どもたちは、目の前にご褒美がなければちゃんと勉強しないのでしょう。

 実は、人間にはどうも目先の利益が大きく見えてしまう性質があり、それゆえに、遠い将来のことなら冷静に考えて賢い選択ができても、近い将来のことだと、たとえ小さくともすぐに得られる満足を大切にしてしまうのです。

 たとえば、半年後の正月に祖父母から5000円のお年玉がもらえるとわかっている子がいるとしましょう。その子に「1週間もらうタイミングを遅らせればお年玉は5500円になるよ」と伝えると、その子どもは「だったら、1週間我慢して5500円をもらうよ」と答えるわけです。

 一方、明日の誕生日に祖父母から5000円の小遣いがもらえるということになったとしましょう。その場合、「1週間延期する代わりに小遣いは5500円になるよ」といわれても、すぐに得られる満足を優先し、明日の5000円を選んでしまう、というようなことが生じます(図4)。 

*人間は「今」と「将来」を比べると、今目の前にある利益や満足のほうを優先しがちな「選好」(個人の「好み」)を持っており、これを経済学の用語では「時間割引率が高い」という。そして、近い将来の時間割引率のほうが遠い将来の時間割引率よりも高くなることを、経済学の用語で「双曲割引」という。*人間は「今」と「将来」を比べると、今目の前にある利益や満足のほうを優先しがちな「選好」(個人の「好み」)を持っており、これを経済学の用語では「時間割引率が高い」という。そして、近い将来の時間割引率のほうが遠い将来の時間割引率よりも高くなることを、経済学の用語で「双曲割引」という。
拡大画像表示