国民からどんなに冷たい目で見られても自衛官は創隊以来、法令を遵守し、吝嗇に生きるのが真骨頂であった。
今回の事務次官や統合幕僚長以下218人の大量処分者が出たことは、隊務に支障をきたし、また長年にわたって築かれた国民の信頼を失なわせる由々しき事態である。
特定秘密取り扱いの法令無視、並びにパワハラ、潜水手当ての不当受給、無銭飲食という防衛省・自衛隊の内部に巣食う倫理観の欠如が露わになった。
木原稔防衛大臣は「国民の信頼を裏切るもので決してあってはならない」と語っているが、国際情勢が緊迫し、中でも核兵器を保有する国に取り囲まれている現今の日本において、防衛の緩みは許されない。
また、国民の信頼を得るためだけでなく日米同盟や友好国との共同のためにもあってはならない。
防衛省・自衛隊は厳しく糾弾されても申し開きできない。防衛省・自衛隊の組織や教育・訓練などに欠陥があることが明白になった。
ただ、事案の背後、根底には防衛省・自衛隊で解決できない国家的課題が大きくのしかかっている。
よって、今回は隊内問題を主体に論述し、自衛隊のみでは解決できない政治的・国内的問題は次回で考察する。
大事故の裏には多くの小事故がある
自衛隊ではここ数年、不祥事や重大事故が続いてきた。
1件の重大事故の背後には軽微な29件の事故が隠れており、さらにその背後には300件のヒヤリとし、あるいはハッとするような危険な状態(ヒヤリハット)が隠れているというハインリッヒの法則がある。
法令を無視してでも特定審査を受けていない隊員を使わなければ艦艇を動かせないという切羽詰まった事情があったにせよ、自衛隊の行動の基本は法令の遵守にあることをいっときも忘れてはならない。
特定秘密が法定された直後は取り扱いを認定された隊員はほぼゼロではなかったか。それでも艦艇が動かなかったとは寡聞にして知らない。
当時の艦長はいうまでもなく、上級の自衛艦隊司令官や海上幕僚長は法律の施行を知りながら、違反し続けたのだろうか。
そうした教訓を踏まえた対処法(法の執行を暫定的に緩和する、特定秘密取り扱い者認定に至る期間を短縮するなど)も取れたのではないか。
すでに退職した上級幹部たちも含め、彼らの意識や行動に疑問が尽きない。
自衛隊は命令で動く組織である。上位者や上級部隊の命令指示は絶対的と受け止められる。
ましてや内局部員が仕事で相手にする自衛官は大体において同年齢の自衛官(旧軍の大尉や少佐)ではなく年齢的には15歳も20歳も上の班長(1佐で旧軍の大佐)クラスである。
部員自身に驕りが出て、班長の下で働いている同年齢の自衛官を無視する姿勢をしばしば目撃した。
夜郎自大にもほどがあると思ったものであるが、こうした意識がパワハラにつながりやすいのかもしれない。
以下に縷述する諸々の問題から真摯に解決を図らなければ、国民の負託に応える組織たり得ない。