「若者は思慮・分別がない」は本当?

 立候補年齢を25歳・30歳と規定している理由について、政府はこれまで、若者には思慮と分別がないからだという趣旨の見解を示してきました。選挙権年齢を18歳に引き下げた際も国会では被選挙権年齢の引き下げについて議論が交わされましたが、当時の高市早苗総務大臣は「被選挙権の年齢については、社会的経験に基づく思慮と分別を踏まえて設定されている」(2016年11月、参議院・政治倫理と選挙制度に関する特別委員会)と答弁し、従来の姿勢を崩しませんでした。

 国側は立候補年齢引き下げ訴訟においてもこうした立場を堅持し、原告6人の訴えは速やかに退けられるべきだと主張しています。しかし、原告側はこれに猛反発。若者が公職にふさわしいかどうかは有権者が判断するものであって、若者全員が社会経験に乏しく、思慮と分別を欠いているとする判断はとうてい納得できないと反論しています。

 この訴訟の原告らでつくる団体「立候補年齢を下げるためのプロジェクト」によると、2013年と2023年の統一地方選において、東京都内で行われた区市町村議会議員選挙の年代別投票率を分析したところ、20代・30代の立候補者が多い地域ほど若者の投票率が上昇するという結果が得られたと言います。さらに、立候補年齢を引き下げた欧州各国の実例をもとに「年齢引き下げによって弊害が生じたということはない。むしろ、どの国でも若い世代の政治への関心や関与が高まった」としています。

 また、日本の主要政党では、立候補年齢の引き下げに明確に反対しているところはありません。直近の国政選挙だった2022年の参院選では、被選挙権の引き下げに関して各党は次のような公約を掲げました。

・引き下げの方向で検討(自民党)
・引き下げを目指す(公明党)
・18歳に引き下げ。参議院議員と知事は23歳に引き下げ(立憲民主党)
・衆参両院を18歳に引き下げ(日本維新の会)
・速やかに引き下げ(日本共産党)
・衆議院議員18歳、参議院議員20歳とする(国民民主党)

 訴訟そのものは判決までまだ相当の期間を要しそうですが、政治の世界で各党が真剣に議論を重ねれば、一致点を見出すのは難しいことではなさそうに映ります。それとも、各党の姿勢は若い世代へのウケを狙った見せかけのポースに過ぎないのでしょうか。

フロントラインプレス
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