気に入らない映画を選んだ担当者は銃殺の刑

 それにしても、虐殺した人数が大雑把すぎるが、断定できないのは、大規模の粛正のみならず、周囲の者が忽然と姿を消すことも珍しくなかったからだ。冗談のようだが、スターリンが気にくわない様子を見せると、その怒りを買った人物の姿が見えなくなるのだ。

 例えば映画だ。スターリンは大の映画好きでクレムリン宮殿3階に設けられた映画室での映画鑑賞が日課だった。

 刑事映画やギャング映画が好みだったというが、ここで難しい選択を迫られたのが鑑賞する映画を選ぶ担当者だ。

 担当者はスターリンの機嫌を見極めて作品を選び上映しなければいけない。上機嫌の時は初見の映画を流し、読めないときは無難な作品を選ぶ。国内ではいかなる映画もスターリンの検閲を受けないと公開できなかった。

 たかが映画と思われるかもしれないが、外国映画は逐一、通訳しなければいけなかったので、担当者はムチャクチャ大変な労力を伴った。担当責任者が2人続けて銃殺されているくらい命がけの仕事だった。それにしても、映画が気に食わないからと殺してしまっていては確かに何人の命を奪ったか正確に把握できないはずだ。

 スターリンの悲劇的な最期もそんな恐怖政治がもたらしたといってもいいすぎではない。

倒れる前年1952年に撮影されたスターリンの肖像写真(写真:AP/アフロ)
拡大画像表示