理由はいくつもあるが、一番の問題は、同地域にすでに存在する水問題が深刻化するという懸念だ。ブランデンブルクは、ドイツでももっとも水の少ない地域の一つで、気候変動によって飲料水となる地下水の水位が低下している。グリューンハイデの中でも地域によっては住民に1日105リットルという水道水の使用上限が課されるほどだ。これはドイツ人の1日の平均水消費量128リットルに比べ、大幅に少ない。

 反テスラ環境団体ネットワーク「テスラの蛇口を閉めろ」のエスター・カム広報官によると、「水不足のために一般住民の宅地建設には許可が簡単に下りなくなっている」という。

 そんななかでテスラの工場にはすぐに建設許可が下り、テスラはすでに年間約50万立方メートルもの水を使用している。今後生産台数が増えれば、テスラによる水消費量はさらに増えるだろう。市民よりも大企業が優先されているかのようだ。

テスラの敷地に侵入しようとして警察と衝突した活動家ら(C)Tim Wagner/Disrupt提供テスラの敷地に侵入しようとして警察と衝突した活動家ら(C)Tim Wagner/Disrupt提供

 テスラは使用した水を100%リサイクルし、使用する水道水の量を抑えていると主張している。しかし、衛生設備などからは外部に廃水を出しており、地域の水道協会(WSE)によれば「テスラは工場開設以来、規制値を大幅に超過する廃水を垂れ流している」と、独誌「シュテルン」が報じている。WSEはテスラと各汚染物質の制限値について合意し、契約を交わしていた。しかし、調査の結果、最大許容量の6倍のリンが廃水から検出されたという。廃水は処理場で浄化され、川に流されるが、あまりの汚染のために処理場で適切に処理できない可能性が指摘されている。

テスラ工場で相次ぐ環境事故

 住民による「グリューンハイデ市民イニシアティブ」によると、同地域にあるテスラ工場の3分の2は、飲料水保護地域に位置している。水を採水している場所は工場から1.5キロメートルのところにある。一方、テスラは、すでに多数の環境事故を起こしており、同地域の飲料水となる地下水の汚染が懸念されている。

 ブランデンブルク州環境局によると、2021年末から2023年9月までにテスラ工場での26件の環境事故が報告された。1万5000リットルの塗料、合計200リットルの軽油などが流出した事故もあった。これらの液体の土壌への浸出を防ぐための措置は取られていなかった。同地域には物質を濾過・浄化できるような土壌もない。ベルリンのライプニッツ淡水生態学・内水面漁業研究所のマーティン・プッシュは、テスラにおける環境事故が近隣の水源を今後何年にもわたって汚染する可能性を、「シュテルン」に指摘している。

シュテルン」の調査報道によると、テスラ工場の敷地内には、地下水測定ポイントが約20カ所あるが、実施するのはテスラが委託した会社だ。地域の水供給会社も行政もその状態を把握できていないという。通常、水保護地域では地中深くに杭を打つことが禁止されている。しかし、テスラが鉄筋コンクリートの工場建設のために同地域の地中に杭を打つことは、当局によって許可された。

テスラ車は「一握りの金持ちのためのもの」?

 また、カムは「テスラの作る電気のスポーツ多目的車(SUV)は、気候変動の解決策にならない」と訴える。

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