(歴史ライター:西股 総生)
「城としての空間の広がり」を写しとる
「碑ペロ」「板ペロ」写真から脱却するには、まず構図を何とかしたい。石碑や説明板は、土塁を背に立っていることがけっこう多い。であるなら、石碑・説明板の背後にある緑や茶色のカタマリが、土塁であるとわかるような構図にしてみよう。
広場の真ん中にポツンと立っている場合でも、その広場が曲輪であることを表現できるように、アングルを工夫してみる。このサイトで少し前に、広角レンズを使って土の城を撮るコツや、中望遠レンズで城郭建築を撮る方法などを、解説したことがある。それらの記事が参考になるはずだ。
要は「城としての空間の広がり」を写しとる工夫をするのだ。土塁も堀も何も残っていない城跡でも、「空間の広がり」が映り込めば、城らしさが感じられよう。市街地化の進んだ城跡なら、むしろ市街地の中に立っている様子を写しとった方が、無常感みたいなものが出てよいかもしれない。
あるいは、説明板の板面を資料として記録するために撮ることも、あるだろう。それなら、資料として板面が読みやすいように撮ろう。土の城はズームを広角側にして撮っていることが多いと思うが、説明板を広角のまま撮ると、板面が上すぼまりになったり歪んだりして、読みにくい。ズームを標準~中望遠域にして、少し離れた位置から撮るとよい。
カメラによっては、シーン別撮影モードの中に「文書撮影モード」が入っている場合があるので、利用するとよい。「文書撮影モード」がない場合は絞りをF8にして、+0.3~0.7程度の露出補正をかけると、読みやすく撮れる。
石碑の撮影でいちばん難しいのはライティングで、日の当たり方によって字がきれいに読めたり、読みにくかったりする。石碑に彫り込まれた文字は、真っ正面からベタに光が当たると読みにくく、斜めから光が差すとくっきり読める。こうしたケースでは、マイナス気味に露出補正をかけた方が、カッチリ撮れる。
石碑が木陰にあったり、木漏れ日がマダラに差したりして、碑面が読みにくいというのも「城跡あるある」だ。そういう時は、とりあえず1枚押さえておいて、光線状態が変わるのを待つ。
といっても、石碑の前でじっと光待ちをしているわかにもいかないから、主郭あたりを一回りしたら戻ってみるとか、城から出る前にもう一度、戻ってみるとよい。風が吹いているなら、数分待ってみるだけでも、さーっと光が差すタイミングが得られるものだ。
一番の難敵は、完全に逆光になってしまうシチュエーションだ。逆光の場合、レンズに直接光が差し込むとゴーストやフレアを生じてしまう(ハレーション)。レンズフードの装着はマストとして、掌や手帳をかざして「ハレ切り」をしてみよう。
それでもダメなら、アングルを変える。石碑の後ろ上方から太陽が差している場合でも、斜めから撮るアングルを探せば、逆光をかわせる。いずれにせよ、逆光の場合は露出補正をプラス側にかける。スポット測光で碑面の露出をとるのもよい。
最後に一つ。石碑なんか、どこの城跡でも当たり前に立っていると思ったら、大間違いである。教育委員会などによる説明板や標柱なら、たいがいの城跡に立っている。でも、しっかりとした石碑となると、案外少ないものだ。立派な石碑を立てるには、資金と労力を要するからだ。だから、石碑の裏面には資金を供出した人の名や、建立の経緯などが彫り込まれているし、碑面の揮毫が意外な有名人であったりする。地元の人たちの郷土愛や熱意が結集しなければ、城址碑は立たないのだ。
城址碑は、敬意をもって接すべき文化財なのである。であるなら城址碑だって、被写体としてカッコよく撮ってあげようではないか。