以下に紹介するズオロン・サレーイ(Zuolong salleei:薩利氏左龍)とアオルン・ジャオイ(Aorun zhaoi:趙氏敖閏龍)という2種類の恐竜も、やはりピンイン系の命名だ。いずれもコエルロサウルス類であり、復元図においては、非常に鳥に近い外見で描かれることが多い。

米中対立の狭間、米中共同プロジェクトにより発見された結果…

 ズオロンの化石は2001年、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市から北東に約150キロの場所にある、ジュンガル盆地の昌吉回族自治州ジムサル県五彩湾の石樹溝層で発見された。約1億6000万年前、ジュラ紀後期に生息していたとみられている。体長は推定3.1メートルの若い個体だった。

ズオロンの復元図(FunkMonk, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

 ズオロンが発見された経緯は、なぜか中国国内の一般メディアではあまり情報が出ていない(特にオンライン上で記事を見つけるのは困難である)。おそらくその一因は、化石が2000年からスタートしたアメリカのジョージ・ワシントン大学と中国科学院古脊椎動物・古人類研究所との共同研究プロジェクトのなかで見つかったことにあるのだろう。

 ズオロンの発見当時の米中関係は、1999年5月に起きたNATO軍による駐ユーゴスラビア中国大使館誤爆事件や、2001年4月に米軍偵察機と中国軍戦闘機が衝突事故を起こした海南島事件などの影響で非常に険悪な状況にあった。

 アメリカとの共同作業の発掘成果を大々的にアピールしにくい世情ゆえに、中国語エピソードがあまり伝えられなかったのではないかとも思える。

 さておき、21世紀の人類の国際問題にまつわる事情は、当の恐竜自身にはあまり関係がない。五彩湾で見つかったズオロンの化石は、複数の頭蓋骨のほか、脊椎や尾・手足などの一部の骨であった。

 その特徴は明らかなコエルロサウルス類の形質を示しており、この仲間のなかでは頭骨と身体の両方が見つかった最古の事例であるとみられている。そもそもジュラ紀のコエルロサウルス類の化石自体が珍しく、意義ある発見であった。