勃起不全の要因とそのメカニズム

 有史以前から江戸時代までの長い間、我が国の社会での性観念は非常におおらかなもので、古来より、権力者だけでなく賢者や人格者までもが側室や妾を抱えていた。

 一般庶民も性に関しては奔放で、性愛行為を自由に楽しみ、春と秋の祭りの日には、男女ともに野外で性交に勤しんだ。

 明治時代に入ると、近代化のために西洋諸国の文化やキリスト教の教えを積極的に取り込んだことで、女性の貞操観念が強く叫ばれ、純潔さが求められるようになった。

 以降、それまで一般的だった婚前交渉は影を潜めた。

 それまで社会常識とされてきた、「婚前交渉はもってのほか」という考え方から、愛があれば婚前交渉は可という価値観に取って代ったのは、昭和40年世代の青春期前後あたりからではないか。

 そうした愛とセックスを謳歌した世代も、いまや還暦を迎えようとしている。

 中高年男性の多くは、勃起力の低下という悩みを抱えている。それに伴いセックスをしなくなったという諸兄も多いだろう。

 性行為ができるか否かは健康のバロメーターである。

 セックスをしなくなってしまうと、健康に悪い影響があることは広く知られている。

 陰茎が萎み、性行為が完遂できない状態を、かつてインポテンスといったが、現在は勃起障害という言葉が一般的なようだ。

 勃起不全あるいは勃起障害を「Erectile Dysfunction」の頭文字をとり、EDという略語で称される。

 勃起不全は将来の心臓発作や脳卒中、慢性腎臓病といった深刻な健康問題の兆候として現れることがある。

 動脈硬化が引き起こされると、脳から陰茎へ勃起の信号が送られても、血管が広がりにくく、陰茎海綿体に血液が流れ込みにくくなる。

 動脈硬化は弾力性がある血管が硬くなった状態を指し、加齢は動脈硬化を引き起こす要因の一つであり、勃起不全の原因として挙げられる。

 加齢だけでなく生活習慣も勃起障害に大きく関係している。

 例えば、血糖値が高い状態が続くと、壁が傷つくなどして血管は硬くなり、陰茎海綿体へ血液が流れ込みにくくなるため、性的刺激を受けても勃起しにくい状態に陥りやすい。

 我が国において約1000万人が勃起障害であるといわれている。

 勃起不全の要因は大きく2つに分類される。

 一つは特に病気がないのにもかかわらず、不安、緊張などの精神的な問題が原因で起きる心因性。

 もう一つは、高血圧、糖尿病、神経系、血管障害、内分泌環境、過度なアルコール摂取や、テストステロンの低下といったホルモンバランスなどの器質性によるものだ。

 勃起と射精は異なる2つの自律神経の働きによる。

 一般的に人は緊張していると勃起しにくくなるといわれるが、その理由として、勃起するには精神的な安心感を生じさせる、副交感神経が優位な状態にある必要があるためである。

 一方、射精は刺激や興奮、緊張や覚醒をもたらす交感神経が優位な状態で生じる。