「日の丸液晶」から「日の丸有機EL」へ
私にはもう一つ気がかりなことがある。それは、戴元社長が悲願とした「日の丸液晶」の復権がシャープの「再崩壊」によって幻影となってしまうのではないか、ということだ。
私なりに「日の丸液晶」復権の可能性を追求するため、「探索」をもとにした経営戦略について考えてみたい。
シャープは、中期経営計画で、「中小型ディスプレイ事業は、他社との協業」を進めるとしている。筆者は、他社との協業としてJDIとの協業に期待したい。
JDIは、2024年3月期に10年連続の連結最終赤字を計上した。しかし、逆に言うと、両社が逆境にある今こそ「提携のチャンス」とも言える。
バックプレーンと呼ばれる駆動素子基板は、シャープは中小型液晶の生産ラインを維持しており、その工場で有機EL用の駆動素子基板を生産できる。当時世界軽量の有機ELスマホを生産した場合も、駆動素子基板を多気工場で生産し、堺工場に運んで、フロントプレーンと呼ばれる有機ELを形成した実績がある。中小型の場合には、バックプレーンとフロントプレーンを別工場で生産することは可能である。
フロントプレーンの有機ELの部分は、JDIが独自に開発したeLEAPと呼ぶ次世代製造技術を持っている。JDIのキャロン会長CEOは「eLEAPが今後の飛躍的な成長をけん引する。2024年12月から、悲願の量産を開始することができる」と述べている。
有機ELスマホで世界シェア1位のサムスン等は、【図3】(1)に示すように、RGBの3種の蒸発源を切り替えながら、間に設けたメタルマスクを移動させて、RGBを塗りわけるという神がかり的な技術を用いている。微細な開孔が精密に配置されたマスクと、マスクを高精度に移動させる機構が必要である。このため、製造装置が高価になる。また、マスクの精度や歪み、移動機構誤差により良品率が低くなる。
これに対し、eLEAPは、【図3】(2)に示すように、メタルマスクを用いずに、一般的な工程でも、有機EL材料をパターニングできる画期的な技術と考えられる。eLEAPは、大幅なコストダウンができる有機ELスマホのゲームチェンジャになり得る。
液晶の技術・ノウハウと中小型液晶の生産ラインを有するシャープと、eLEAP を有するJDIの協業による「日の丸液晶」ならぬ「日の丸有機EL」は、相互の強みを活かせる提携になり、有機ELスマホのゲームチェンジャになり得る。
「日の丸有機EL」は、可能性があり、ゲームチェンジャになりえると期待したい。
もちろん、JDIが単独でeLEAPを量産し、飛躍的な成長を遂げる可能性もあり得る。
シャープの現経営陣は「再崩壊」を招いたが、その原因を分析し、「再々建」して欲しい。