SPD完全子会社化は戴正呉氏の「置き土産」

 さらに堺工場の運営会社「堺ディスプレイプロダクト(SPD)」の位置づけについても大きくブレた。

 シャープは、液晶ディスプレイを生産する堺工場の運営会社SDPを、2022年6月27日に完全子会社化した。前述のように、一部ではこのSDPの完全子会社化が再崩壊の引き金になったのではないかと言われている。

 もともとSDPは、2009年にシャープが設立し稼働を始めたが、シャープの経営不振を打開するため、戴社長就任後の2016年12月に、鴻海の創業者・郭台銘氏の資産管理会社にSDPの株式の過半数を引き受けてもらい、シャープの連結から外した経緯がある。その後、郭台銘氏の資産管理会社はSDP株をサモアのファンドに売却していた。

 その時点でシャープはSDP株の2割ほどを持っていたが、22年にサモアのファンドの保有株を約400億円相当の株式交換という形で取得したのだ。

 赤字拡大を防ぐために株式を譲渡し連結から外したはずのSDPを、わざわざ海外ファンドから株式を取得して完全子会社化したのは、なぜだったのか。

 シャープは、赤字を覚悟でSDP株を取得して完全子会社化を図ったのだ。それは、戴元社長の思いからである。

(参考記事)JBpress〈シャープ赤字転落の原因、ディスプレイ工場「子会社化」の決断は正しかったか〉2023年3月8日

 戴元社長は、著書『シャープ 再生への道』の中で、SPDを完全子会社化した狙いは、1つは液晶パネルの安定調達、もう1つは技術の優位性の維持として、次のように述べている。

「完全子会社にした方がシャープの将来のためになるとの結論に至った」

「日本に液晶パネル産業を残したい。(中略)『日の丸液晶2.0』の動きが出てくることに期待したい」

 SDPの完全子会社化は、「経営理念」に立ち返った戴元社長の置き土産と言えそうだ。

 完全子会社化がシャープの経営を圧迫しているのは間違いないが、近い将来の「日の丸液晶」の復活を視野に入れるのならば、生産拠点を完全に掌握しておきたいということだったのだろう。

 しかし結果を見れば、堺工場は停止され、データセンターに転用されることが発表された。