10次元を説明する「超弦理論」とは何か
野村:簡単に言うと、僕らが粒子だと思っているものすべてを「紐」だと考える理論です。超弦理論では、空間ですら紐です。
現代の物理学の大きな問題の一つは、素粒子間に働く4つの基本相互作用を一つの理論で記述できていないということです。4つの相互作用のうち、重力はアインシュタインの一般相対性理論で、強い相互作用と弱い相互作用、電磁相互作用の3つは量子力学的理論の標準模型で描写されます。
超弦理論では、空間は9次元、時間は1次元の計10次元です。するとなぜか、一般相対性理論で描写される重力と標準模型で描写される3つの相互作用を数学的に矛盾することなく記述することができるのです。
もちろん、数学的に矛盾しないからと言って、その法則で自然界が動いていると確定するわけではありません。やっかいなことに、現時点で「こういう実験をすれば超弦理論が正しいかどうかわかる」というアイディアは誰も持ち合わせていません。
というのも、超弦理論の紐は、現在の実験技術の分解精度のオーダーよりも15桁程度小さいんです。実験的に確認のしようがないとネガティブに捉える研究者もいます。
ただ、超弦理論のすごいところは、数学や物理のさまざまな法則を含んでいるという点です。超対称性理論やホログラフィック原理なども超弦理論で説明することができます。
調べれば調べるほどいろいろなことがわかるので、超弦理論は波及効果がものすごく大きい。新しい理論やアイディアの宝庫のようなものです。それも超弦理論の魅力の一つです。
私たちが認識できない残りの6次元はどうなっている?
──超弦理論では、次元は10次元で記述されるということですが、私たちが普段認識できていない6次元はどうなっているのでしょうか。
野村:我々が認識している4次元以外の余計な次元を「余剰次元」と言います。超弦理論によると、余剰次元のサイズは、原子核より15桁ほど小さいと考えられます。
ここで、薄い1枚の紙を考えてみましょう。僕らから見ると、紙は2次元です。数学的に、紙の上の1点を指定しようと思ったら、xとy、2つの数字を指定すればいい。
でも、ものすごい小さい人からしたら、紙には厚み方向の次元が存在しています。3つ目の次元があるんです。厚み方向の3つ目の次元は、ほかの2次元と比較して極端に小さいため、僕らのような大きなサイズの人間が、その次元を認識することはほとんどありません。
つまり、紙の上の2次元のどの点をとっても、認識できないだけで厚さ方向の次元がくっついてくるということです。
同じように「我々の宇宙」では、3次元が大きくて、6次元がとんでもなく小さいんです。だから僕らは、余剰次元を認識することができません。でも、3次元方向の1点を指定すると、小さく丸まった6次元がくっついてきます。大きな人間には、そのコンパクト化された6次元方向を移動するなどという芸当は到底できません。