コメディ要素も満載

 笑える朝ドラであるところも良い。朝ドラは笑わせてくれる作品が少なく、過去には『あまちゃん』(2013年度上期)など数える程度しかない。最初から最後までクスリともさせない作品もあるが、この作品は違う。寅子を演じる名コメディエンヌの伊藤と優三に扮する名コメディリリーフ・仲野の存在が大きい。

 第3回。寅子と優三は猪爪宅内で、壁越しに話していた。優三は高等文官試験司法科の合格を目指しており、昼は寅子の父親・猪爪直言(岡部たかし)と同じ帝都銀行で働き、夜は明律大専門部に通っている。このときの2人の話題は寅子の明律大女子部法科への進学についてだった。

 優三は着替えをしながら寅子の合格を保証した。「寅ちゃんなら大丈夫だよ」。気のない言葉だった。すると、寅子は感情を高ぶらせ、「そこは心配していないの!」と言いながら、ズボンを脱ごうとしていた優三のそばに来てしまう。

 慌ててズボンを履こうとした優三はつんのめり、尻を突き出す。その後は足枷を付けたような状態になって、自由に動けなくなる。寅子は、はるを説得できるかどうかで気を揉んでいたのだ。

 第5回も笑えた。はるは寅子に対し、自分は実家の旅館を離れられるのなら嫁ぐ相手は誰でも良かったが、直言と一緒になったら意外と幸せだったと話す。だから寅子も見合いをして結婚しろと迫る。だが、寅子は苦い表情と冷めた口調でこう答える。

「私にはお母さんが言う幸せが地獄にしか思えない・・・」(寅子)

 同じセリフでも笑わせることが出来ない女優は多い。伊藤がそうでないのは間の取り方や表情のつくり方がうまいから。コメディエンヌとして一流だからである。

 2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』で主人公・豊臣秀長に扮する仲野もそう。第2話。両親を早くに亡くしたため、猪爪家の書生になる優三は、目の前に座っていた直言とはるに向かって深々と頭を下げる。

 そのとき、勢い余って座卓にゴツンと額をぶつけてしまう。「痛ッ」。クスリとなった。こんな古典的なコントの動作で笑わせられるのはコメディの才能に恵まれているからだ。