米津玄師主題歌のオープニングも出色のできばえ

 朝ドラというと一括りにされがちだが、『虎に翼』には個性がふんだんにある。まず寅子は相手の言い分に納得がいかないと、「それは違うと思います」などと言わず、「はて?」と口にする。このドラマがヒットしたら、流行語になるのではないか。

 人名などの説明などにはテロップ(字幕)でなくフリップ(文字や表の書かれた紙状のもの)が使われている。今後、法律なども説明するためだろう。

 尾野真千子(42)によるナレーションは寅子の心象風景も細かに表す。だから通常の朝ドラよりやや多い。

 オープニングはSNSなどで評判が良い。法衣をまとった寅子と市井の女性たちのアニメーションが、米津玄師(33)による主題歌「さよーならまたいつか!」に合わせ、踊る。「オープニングなんてどうでもいい」などと侮るなかれ。制作者たちのセンスが集約されているからだ。

 制作者のイズムが表れやすいのがファーストカット。この朝ドラの場合、1946年に公布された日本国憲法の第14条を寅子が新聞で読み、肩を振るわせる場面だった。

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

 寅子の泣き顔や涙をあえて撮らず、抑制を効かせた演出が良かった。制作統括は人気を博した大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年)と同じ尾崎裕和氏が務めている。

【高堀冬彦】
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

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