東大含む(いわゆる)旧帝大合格者のうち、東京圏出身者の割合が近年顕著に増えている――。3日付の毎日新聞朝刊が、長年『サンデー毎日』が収集してきたデータをもとに、こんな分析結果を報じた。本人が選択しえない「生まれ」による教育格差は、いまどんな状況にあるのか。出身地域の多様性が下がったキャンパスは、学生たちにどんな影響を与えるのか。『教育格差』(ちくま新書)の著書がある龍谷大学社会学部の松岡亮二・准教授が、3回にわたり、毎日新聞が報じたデータを独自分析した上で詳しく解説する。
#2/全3回
<前編>東大合格、増える東京圏出身者 北大・東北大では地元合格を押し下げ…進む「地域格差」は社会に何をもたらすか
(松岡 亮二:龍谷大学社会学部 准教授)
学生構成の均質化への対策:アファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)
東京圏には保護者(以下、親)の職業、学歴、収入などで構成される出身家庭の社会経済的地位(Socioeconomic status、以下SESと略)が高い層が集まり、東大や難関大学への受験対策を行う中高一貫校や予備校といった教育機会がある。その上、実家通いが可能であれば大学進学の際に一人暮らしの費用はかからない。
このままだと、東大や難関大学における東京圏出身者の占有率は高まることはあっても、下がることはなさそうだ。
東京の難関大は学生集団の構成(学生構成=student composition)の均質化を明確に課題として認識した上で1、多様化のために入試と奨学金に地方枠を設けている2。このような施策はアファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)として理解できる。
選抜の際に不利な層のために合格枠を確保するなどして社会的カテゴリー間の結果の差を実際に縮小するアファーマティブ・アクションは、米国では大学入試などで長年行われてきた。
日本でも理工系学部で女性に限定して一定数の合格を出す女子枠の増加が注目されている3。
1 前編のデータで見た東京圏出身者の均質化傾向は2010年以降だが、私大ではより長期的な期間において首都圏出身者の占有率上昇が課題として認識されてきた。たとえば、早稲田大の鎌田薫前総長は2014年の四国新聞のインタビューで「昔はクラスの半分かそれ以上は地方出身者で、それが早稲田の最大の特色でした。今は関東1都6県の出身者が約7割を占めています。これは本学に限ったことでなく、最近は首都圏の大学が「首都圏在住者の大学」に変わってきています」と回答している(「地方出身者を呼び戻したい(インタビュー)」『四国新聞』(2014年12月14日))。同様に、現総長(田中愛治早稲田大総長)も「今は確かに、私の学生時代と比較しても、首都圏出身者が増えている」と言及している(「看板学部・政経の入試で数学必須化の“大勝負”に出た早稲田が受験生3割減でも「成功」と断言する理由」『週刊エコノミスト Online』(2021年10月18日))。理工学術院の石山敦士教授も「早大理工の現状は入学者の多様性が十分であるとは言えません。地方出身の学生の割合は、昭和から令和にかけて長期的に低下が続いていて、最近は25%を切る状態です。これは私どもだけでなく、首都圏の大学の理工系学部に共通した課題です」と述べている(「早稲田大が「優秀な高専生」の確保に本格参入」『日経ビジネス』(2023年5月29日))。
2 地方において付属学校を運営する、高校への宣伝活動、受験会場を設置するなどを行っている大学も散見される。
3 たとえば、東京工業大学と京都大学。
◆ 「東京工業大学が総合型・学校推薦型選抜で143人の「女子枠」を導入」『東工大ニュース』(2022年11月10日)
◆ 「特色入試(女性募集枠)の新設について」京都大学。
松岡 亮二(まつおか・りょうじ)
龍谷大学社会学部准教授。ハワイ州立大学マノア校教育学部博士課程教育政策学専攻修了。東北大学大学院COEフェロー、統計数理研究所特任研究員、早稲田大学助教・専任講師・准教授を経て、2022年度より現職。早稲田大学リサーチアワード「国際研究発信力」(2020年度)などを受賞。著書『教育格差(ちくま新書)』は、1年間に刊行された1500点以上の新書の中から中央公論新社主催「新書大賞2020」で3位に選出。2024年4月時点で16刷、電子版と合わせて6万8000部突破。