ロシアがウクライナに侵略を開始してから2年が経過した。この2年間のロシア・ウクライナ戦争の状況を客観的に検証することは重要だ。
その意味で、有名な米陸軍協会(AUSA:Association of US Army)が発表している『紛争から2年後の戦略的評価(A STRATEGIC ASSESSMENT TWO YEARS INTO THE CONFLICT)』は、ロシア・ウクライナ戦争を客観的に評価しようとする注目すべき文書である。
本稿においては、『紛争から2年後の戦略的評価』を紹介するとともに、それに対する筆者の意見を述べたいと思う。
1『紛争から2年後の戦略的評価』の内容
ウクライナが勝っているのか、それともロシアが勝っているのか。ウクライナがロシアに勝つためには何が必要なのか、逆にロシアがウクライナで勝つためには何が必要なのか。
以下は、『紛争から2年後の戦略的評価』の内容である。なお、太字の文章は筆者が解説を加えた部分だ。
『紛争から2年後の戦略的評価』の概要
ロシア・ウクライナ戦争の現状を総合的に評価すると、ウクライナ軍の前司令官であるヴァレリー・ザルジニー大将が2023年11月の英エコノミスト誌とのインタビューで述べたように「膠着状態にある」と言わざるを得ない。
『紛争から2年後の戦略的評価』でも、「ロシア・ウクライナ戦争における戦略的バランスを検証すると、ロシアが優位に立っている」という結論に達している。
この評価を戦争における勝敗と言う観点でみると、「ロシアがこの戦争に勝利している」という結論だ。
ロシアが勝利しているのは、ドンバス地方、クリミアへの陸橋(陸の兵站経路でザポリージャ州とヘルソン州)、そしてクリミア自体の領有という、ロシアが最低限受け入れられる結果を手にしているからである(図1の4個の図の中の右上の図を参照)。
なお、図1は、ロシアにとっての勝利、敗北の状態を表現している。
左上の図は、ロシアがキーウを含むウクライナの大部分を占領すること。右上の図は、ロシアがクリミア半島、ドンバス2州、ザポリージャ州、ヘルソン州を占領すること。
左下の図は、ロシアがクリミア半島とドンバス2州のみを占領すること。右下は、クリミア半島のみを占領することを示している。
図1「ロシア軍にとっての勝利と敗北」