トランプ発言にNATOは大いなる懸念を抱いた(写真は2月15日、イェンス・ストルテンベルグ事務総長、NATOのサイトより)

 2024年2月11日、英ロイター紙は、次のように報じた。

「ドナルド・トランプ前大統領は2月10日、サウスカロライナ州で開かれた選挙集会で、過去に会談したNATO(北大西洋条約機構)の主要加盟国の首脳から、もし同国が拠出金を払わず、かつロシアから攻撃を受けた場合に、米国が防衛してくれるかとの質問をされたと明かした」

「加盟国名には触れなかった。トランプ氏はこの首脳に『私はあなた(の国)を防衛しない。逆に、彼らに好きなようにするよう伝えるだろう。拠出金は払わなければならない』と回答した」

 また、この発言について質問されたホワイトハウスのアンドリュー・ベイツ副報道官は、「残忍な政権に対して我々の最も近しい同盟国への侵攻を勧めるとは、恐ろしく、錯乱している。また、米国の国家安全保障や世界の安定、米国の経済を脅かすものだ」と述べた。

 トランプ氏のこの発言に関し、ジョー・バイデン米大統領は2月11日の声明で、「プーチン(ロシア大統領)にさらなる戦争と暴力へのゴーサイン」を出すもので、「トランプはNATOの同盟国を見捨てることを明確にした」と批判した(出典:読売新聞2月14日)。

 また、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は2月11日、「相互防衛しないという示唆は、米国を含む我々すべての安全保障を弱体化させる」との声明を文書で発表した(出典:読売新聞2月14日)。

 また、トランプ、バイデン両政権に加わったある高位当局者は、トランプ氏が11月の大統領選でバイデン大統領を破れば、「米国はNATOから脱退するだろう」と語った(出典:CNN2024.02.13)。

 今、欧州同盟国からはトランプ氏が再選されればNATOへの米国のコミットメントが揺らぎかねないとの懸念が出ている。

 一方、米国ではトランプ氏が当選した場合に備えて、NATO脱退に歯止めをかけることとした。

 米上院は、2024年度の国防権限法案に大統領がNATO脱退を決める際の条件として議会との事前協議を義務付ける条項が盛り込まれた。

 同法案は2023年12月22日、バイデン大統領が署名して発効した。

(同条項の詳細は後述する)

 冷戦終結後、米国は、米欧関係がぎくしゃくすると、「欧州が望むならば、欧州にとどまる。欧州が望まぬならば、欧州から撤退する」といった発言をしてきている。

 これらの発言は欧州の同盟国に反発や疑心暗鬼を抱かせると同時に、欧州同盟国の欧州軍構想をかきたてる。

 本稿では、NATO脱退を示唆するトランプ氏の脅威と欧州軍構想の現実味について述べてみたい。

 初めに米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が2023年12月19日付に掲載した「『トランプ大統領』のNATO脱退を防ぐ策」と題する社説の概要を述べ、次に欧州の動向として欧州の「戦略的自律」と「欧州軍」構想について述べる。