今年は5年に1度実施される公的年金の財政状況見直しの年(写真:Princess_Anmitsu/Shutterstock.com

「年金格差」の行方はどうなるのか——。日本の公的年金制度では財政状況を5年に1度見直すことが法律で義務付けられており、2024年はその見直しの年に当たる。公的年金の将来の給付水準を示す「財政検証」を前に、厚生労働省の社会保障審議会年金部会での議論がスタートしている。

 次回の年金制度改正に向け注目されるテーマの一つが、年金財政の「財源」と「給付」を均衡させるために給付を調整する期間の見直しだ。現行制度では国民年金と厚生年金で調整期間に大きな差があり、自営業者や低収入の会社員は不利益を被る可能性があるという。

(森田 聡子:フリーライター・編集者)

本来の改定率より年金支給アップが抑えられる

 厚生労働省が1月に発表した2024年度の公的年金の支給額は、前年度比で2.7%アップとなった。国民年金に40年間加入した自営業者(68歳以下)は月額ベースで1750円増の6万8000円、厚生年金のモデル年金(夫は会社員の平均的な収入で40年間厚生年金保険料を納め、妻は専業主婦の場合)は同6001円増の23万483円となる。

 2023年10~12月期は決算を公表した上場企業の6割以上で最終利益が市場の予想を上回り、春闘では連合が30年ぶりの高水準だった前年を超える「賃上げ分3%以上、定期昇給相当分を含めて5%以上」という強気の目標を掲げている。

 それ比べると2.7%という数字は何とも寂しい限りだ。夫婦2人世帯でひと月に6000円年金が増えたとしても、昨今の食料品や日用品の値上げラッシュには到底追いつかない。

 本来、公的年金は現役世代の賃金や物価の上昇率に応じて支給額も増える仕組みだが、高齢化や保険料を納める現役世代の減少といった年金財政の悪化要因を加味して給付を抑制する「マクロ経済スライド」と呼ばれる制度によって、本来の改定率3.1%より0.4%も低くなっている。

 マクロ経済スライドとは、平均余命の伸びや公的年金の被保険者数の変動に応じて「スライド調整率」を設定し、その分を年金の改定率から差し引いて年金の増加率を抑えるシステムを指す。2024年度分を例に取ると、平均余命の伸びが▲0.3%(定率)、公的年金被保険者総数(令和2~4年度平均)が▲0.1%となり、合わせて0.4%がカットされた格好だ。

マクロ経済スライドのイメージ(図版:共同通信社)マクロ経済スライドのイメージ(図版:共同通信社)
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 年金財政はおよそ100年先までを見通して、現役世代の保険料や積立金などからなる「財源」と高齢者への「給付」のバランスを取っており、財源の範囲内で給付を賄えるようになるまでは、このマクロ経済スライドによる調整が行われることになっている。