管理職だけを鍛えても意味がない

「非管理職への訓練の少なさ」と「ピープル・マネジメントの重要性」と「筋トレ発想」。この3つが組み合わさることで、ピープル・マネジメントの問題は「管理職向けの、対人スキル・トレーニング」へと偏っていきます。多くの組織問題に対し「管理職向けのコミュニケーション研修」「管理職向けの対話研修」「管理職向けのハラスメント研修」「管理職向けのキャリア自律研修」が、解決策として実施されていきます。

 今、企業が当たり前のように行っているこの「偏り」の何が問題か、おわかりでしょうか。これらの根本的誤りは、対人関係という「相互行為」の問題を、「管理職の側のスキル」で解決しようとしていることです。そうした片側だけの訓練では、コミュニケーション参加者同士がともに土台とするべき共通前提」が構築されないため、大きな効果は期待できません。

 人と人とのコミュニケーションをキャッチボールにたとえると、管理職だけのトレーニングは、より優れたキャッチボールをさせようとして「片方の投げ手だけ」に居残り練習をさせているようなものです。外部コーチ(研修講師)の指導のもと、その投げ手は変化球や剛速球を投げ分け、正確なコントロールを身につけるかもしれません。

 しかし、野球の素人と大谷翔平がキャッチボールをしても、身につけたスキルは無駄になるだけです。訓練を受けなければ、誰も160キロの球など捕ることはできません。