ハラスメント意識の副作用

 その一方で、ハラスメントへの意識が高くなることは、組織マネジメントとして看過できない「副作用」を生んでいます。

 上司が「ハラスメントにならないこと」を考えすぎた結果、ハラスメント回避的なマネジメントが現場に蔓延してしまっている、というものです。「どこからがハラスメントに当たるのかわからない」「十分なフィードバックができない」という問題が、一気に現場で噴出しています。

「モンスター部下がいて、何か言ってもすぐ悪くとらえる。周りを巻き込み、話を大きくする」(53歳、女性、卸・小売業)

出所:パーソル総合研究所「職場のハラスメントについての定量調査」

 図表4を見てみると、上司の行動として、「飲み会やランチに誘わないようにしている」が75.3%、「ミスをしてもあまり厳く叱咤しない」が81.7%という高さとなっています。

 このような回避的なマネジメント行動は、上司のハラスメントへの意識が高くなるほど増えます。つまり、ハラスメントについて会社が防止策を講じれば講じるほど、現場上司は防衛的な行動に傾いてしまうということです。

 上司が部下に、まともにフィードバックもできず、飲み会やランチにも誘えず、仕事を任せることもできない。これでは結局、管理職自身が「仕事を巻き取る」ことにつながります。同時に、部下の育成を阻害し、次の管理職を育ちにくくしています。>>【罰ゲーム化する管理職・後編】「クソゲー」から脱する方法、悪いのは上司のマネジメント力の低さだけではない

罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(インターナショナル新書)

第1章【理解編】 管理職の「罰ゲーム化」とは何か
管理職の何が大変なのか
減り続けた管理職の数と賃金
順々に消えていく「期待の若手」
死に至る管理職 管理職と健康問題
「覚悟」する男性、「退避」する女性
【理論編①】 学術研究に見る管理職の役割

第2章【解析編】 管理職の何がそれほど大変なのか
負荷を上げ続けるロング・トレンド
働き方改革の「二重の矮小化」
「年功型」と「年輪型」、頭の痛い「年上部下」問題
管理職負荷の「インフレ・スパイラル」
【理論編②】 「管理監督者」と「管理職」は何が違うのか

第3章【構造編】 ここが変だよ、ニッポンの管理職
バグの発生源はどこにあるのか?
「入り口問題」――「いつの間にか管理職候補」の不思議
なぜ管理職の市場価値が下がるのか
「出口問題」――「役職定年」という落とし穴
世代闘争から世代「逃走」へ
【理論編③】 「管理職不要論」を解体する

第4章【修正編】 「罰ゲーム化」の修正法
「罰ゲーム」に対する「筋トレ発想」という罠
1 「フォロワーシップ・アプローチ」――「同じ土俵」をいかに作るか
2 「ワークシェアリング・アプローチ」――エンパワーメントとデリゲーション
3 「ネットワーク・アプローチ」――絆の「地」をいかに設計するか
4 「キャリア・アプローチ」――「健全なえこひいき」と「行ったり来たり」の組み合わせ

第5章【攻略編】 「罰ゲーム」をどう生き残るか
「会社は何もしてくれない」ときに
「アクションの過剰」を抑えるという大原則
仕事の「ものさし」を柔らかくする
「仕事のものさし」はなぜ硬くなるのか

終章 結局、管理職になるのは、「得」なのか「損」なのか