現地スタッフの目が輝いた瞬間が忘れられない
このようにSNSが世論形成に与える影響について、2022年に国連はフェイクニュース対策(原語では“Countering disinformation for the promotion and protection of human rights and fundamental freedoms”)の観点から報告書を提出しており、上記三点についても強い問題意識を表明している。
報告書の最後に勧告の一つとして「個人が情報のソースを特定し審査できるように、メディア、フェイクニュース、そしてデジタルリテラシーに関するクリティカル・シンキングを促す教育への投資を、市民団体やアカデミアと協力し行うこと」を加盟国に勧めている。なので、私もこの記事には、読者の皆さんが情報ソースを特定し私の議論の内容を審査できるように、ソースを多めにつけてみた。
ここまで、SNS分析の手法と課題、SNS産業の動きが国連の紛争分析に及ぼす影響について述べた。元々はSNS分析について興味関心を引き出すために書いた記事だが、問題の多さと変化の激しさを強調しすぎて宣伝に失敗したのではと不安だ。6000文字も書いていないで、ビデオで踊りながら説明した方がよかったのかもしれないが、あいにく私の大学院ではそんなスキルは学ばなかった。
私自身、時代とテクノロジーの進化についていくのが時々しんどくなってくるミレニアル世代である。大きすぎるスマホを片手に小さすぎるフォントで、Z世代の部下からの早すぎるメッセージにあくせく返信する日々である。手首も目も指も痛い。
しかし、SNS分析をする中で出会った多くの個人の興味深い意見や、無名ながらも価値あるムーブメントの数々を思い起こすに、これらが研究を通じて日の目を見ないのはもったいないと感じている。何より、私が担当したSNS分析の結果を現地のスタッフたちに見せた際に、相手の目が輝いた瞬間が私は忘れられない。
彼らは言った。「そうだ、これが市中の意見だ。外交団や専門家が滅多に出会わない、新聞やテレビにも映らない、でも私たちが毎日街で耳にする、リアルな国民の声だ」。
高橋タイマノフ尚子
(たかはしたいまのふなおこ) 国連政務官。専門は武力紛争、平和維持。2019年には国連で初めて最新テクノロジーやAIを活用した紛争分析、解決を専門に扱う新チーム「イノヴェーション・セル」を国連政務・平和構築局内に立ち上げた。上智大学外国語学部ロシア語学科、米国コロンビア大学国際公共政策大学院卒。ロシア語、英語に堪能。
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