(英エコノミスト誌 2024年1月6日号)
世界中の国々がテクノロジーの面で自国の運命をコントロールしようとしのぎを削っている。
2023年に最も活気があった技術は、年末の数週間にも慌ただしい動きを見せた。
11月28日には中東のアブダビで、国家支援を得た人工知能(AI)企業AI71が設立された。アブダビの有力な大規模言語モデル(LLM)「ファルコン」を商業化する。
12月11日にはフランスで、7カ月前に創設されたばかりのAIスタートアップ企業ミストラルが4億ドルという巨額の資金調達を行ったと発表した。
関係者からは、これにより同社の評価価値は20億ドルを超えるとの声が上がっている。
その4日後にはインドのスタートアップ企業クルトリムが、インド初の多言語LLMを発表した。
創業5カ月のインド企業サルバムが同様なインド諸言語のLLMの構築資金として4100万ドル調達したほんの1週間ほど後の出来事だった。
新しい「AI産業複合体」の誕生
米国企業のオープンAIが人間のように上手に話すAI「Chat(チャット)GPT」を2022年11月に公開して以来、同様なニュースがほとんど毎月のように流れている。
この背景に照らすと、上記の4件の発表も似通った話に聞こえるかもしれない。しかし、よく吟味すると、もっと重大な何かを暗示していることが見えてくる。
4社のうち3社はその方法こそ独特だが、いずれも国家戦略にも関わるような自国を代表する企業「ナショナル・チャンピオン」を目指している。
「AI71には、オープンAIのような企業とグローバルな競争をしてもらいたい」
このスタートアップ企業の後ろ盾である国家機関アブダビ先端技術研究評議会(ATRC)のファイザル・アルバンナイ氏はこう話す。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は先日、「ブラボー、ミストラル。フランスの天才だ」と誇らしげに語った。
クルトリムの創業者バービッシュ・アガルワル氏は、チャットGPTなど英語を第一言語とするLLMでは「我々の文化、言語、エートス(気風)をくみ取れない」と言い切る。
サルバムがインドの言語から始めたのは、創業者のビベック・ラガバン氏の言葉を借りれば、「自分たちはインドの会社を作っているから」だ。
AIはすでに、米国と中国の間で激化しているテクノロジー競争の中心に位置している。
両国政府がこの1年間に約束したAI投資の金額はそれぞれ400億~500億ドルに上る。
ほかの国々も、取り残されたくない、外国の支配下にある重要技術と縁を切れない状況にはなりたくないと思っている。
2023年には米中に加えて、AIにことのほか熱心な6カ国――英国、フランス、ドイツ、インド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)――がAI関連への投資を表明しており、その額は計400億ドルに達するほどだ(図参照)。
これらの資金はAI企業への支援にも使われるが、大部分は画像処理半導体(GPU、AIモデルの学習に用いられるチップの一種)の購入とGPU生産工場の建設に充てられる。
国家関与の性格や程度は、同じAI超大国を目指す国々のなかでも様々だ。競争はまだ始まったばかりだが、新しい「AI産業複合体」の輪郭はすでに現れつつある。