(英エコノミスト誌 2023年23・30日合併号)
データケーブルが経済的・戦略的資産に変わりつつある。
今月に入って英国、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った時、その狙いは用兵技能に磨きをかけることではなかった。
その代わり、部隊は海底を走るガスとデータのパイプラインを破壊から守る訓練を実施していた。
演習に先立ち、この海域では10月、海底ケーブルが傷つけられる事件が起きていた。
フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領は、事件の元凶とされている中国の船が錨(いかり)を海底で引きずったのは「故意だったのか、それとも極めて拙劣な操縦の結果なのか」と首をかしげた。
海底ケーブルは、以前はインターネットの退屈な配管系統にすぎないと思われていた。
ところが今では、中国と米国の緊張関係が世界のデジタルインフラを分断しかねないなかで、米アマゾン・ドット・コムやグーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちがデータの流れを支配しようとしのぎを削っている。
おかげで海底ケーブルは、経済と戦略の両面でかけがえのない資産に変わりつつある。
急増する海底ケーブル、AIで拡大に拍車
大陸間のインターネットトラフィックのほぼ99%は海底ケーブルで運ばれている。
調査会社テレジオグラフィーの見立てによれば、稼働中もしくは計画中の海底ケーブルは550本あり、総延長は140万キロを超えている。
ケーブルは12~16本の光ファイバーを束ねて作るのが一般的で、ケーブルの太さは庭に水を撒くホースと同じくらい。
平均で水深3600メートルの海の底に置かれている。その半分近くはここ10年間で追加されたものだ。
比較的新しいケーブルは1秒間に250テラビットのデータを転送できる。猫の動画130万本分に相当するデータ量だ。
データはクラウド(雲の意)に保存されるかもしれないが、海の底を流れている。
テレジオグラフィーの推計では、国際インターネット帯域幅の需要は2019年以降で3倍に増え、今では1秒あたり3800テラビットを超えている。
データを貪欲に取り込む人工知能(AI)のブームは、このトレンドに拍車をかけるかもしれない。
データ会社シナジー・リサーチ・グループは、大手クラウド事業者のデータセンターの容量は向こう6年間でほぼ3倍に増えると予想している。
これらのデータセンターをインターネットにつなぐために、データケーブル業界は2020年から2025年にかけて海底ケーブルを新たに44万キロ敷設する。