天使の声が届けるシャンソン、タンゴ
現在、日本でもシャンソンがそれなりに定着していますが、昭和10年にシャンソンの『ドンニャ・マリキータ』をヒットさせたことから、淡谷は日本初のシャンソン歌手として認められるようになります。
今、このオリジナル音源を聴いてみると、歌の巧拙は別にして、平成・令和のアイドル歌手たちの声にはない、別個の心地良さが伝わってきます。
淡谷の可憐な声を聴くのに最適なCDとして、第1回で記した『淡谷のり子 私の好きな歌 コロムビア編』をおすすめします。
タンゴがかなりの曲数を占めていますが、シャンソンの『二人の恋人』『ドンニャ・マリキータ』『待ちましょう』などは、淡谷が20代後半から30代前半にかけての音源で、その天使のようなソプラノに魅惑されます。
すでに酸いも甘いも知り尽くした大人の女性だったからでしょう。かわいらしさを秘めた美声には可憐さとは裏腹に男性を惑わせるような妖艶さが漂っています。
YouTubeでも聴くことができますが、戦後に再録音されたビクター版ではなくオリジナルのコロムビア版で、ぜひ「10年に一人」の天使の声を体感してみてください。
はたして体感後には「歌手・淡谷のり子」のイメージが一変するかもしれません(なお、ビクター版には熟女の魅力が横溢しています)。
また、淡谷の後年の歌唱画像をYouTubeで視聴するとき、一度画面を見ずに声だけ聴いてみることもおすすめします。その声の若さ、歌の説得力に感動し、どうしてもっと早くその素晴らしさに気づかなかったのか、と淡谷に謝罪したくなるかもしれません。