(写真:corlaffra/Shutterstock.com
  • 原油市場で弱気ムードが強まっている。12月12日には一時、6月以来の安値を付けた。OPECプラスが打ち出した自主減産の実効性に疑問符が付いているほか、米中の需要低迷が重荷だ。
  • だが、原油市場最大のリスクはサウジアラビアにある。価格低迷で財政難に陥り、自主減産を放棄して増産に転じるとの見立てが急浮上。一方、親イラン武装組織フーシ派が原油施設を攻撃する懸念も拭えない。
  • 暴落か、急騰か、真逆の方向にある2つのリスクをどう読み解くか。原油市場の先行きが混沌(こんとん)としている。(JBpress)

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 原油市場は12月に入り、弱気ムードが支配的になっている。

 米WTI原油先物価格は12日、前日比3.8%安の1バレル=68.61ドルで取引を終えた。一時、68.22ドルと6月下旬以来の安値を付けた。

 原油価格は前月末から12日時点までに10%近く下落した。「世界の原油市場の需給が緩んでいる」との見方が強まっている。

 OPECプラス(OPEC=石油輸出国機構とロシアなどの大産油国で構成)は11月30日、2024年1月から日量220万バレルの自主減産を行うことを発表したが、市場から「実効性に疑問がある」との声が広がったために、逆に価格の下押し材料になってしまった。

OPEC本部(写真:ロイター/アフロ)

「OPECプラス以外の産油国の生産が堅調だ」との見方も広まっている。世界最大の原油生産国である米国は日量1310万バレルと過去最高水準だ。

 米国最大の産油地域であるパーミアン盆地では大型の企業買収が相次いでいる。米エクソンモービルが600億ドルでパイオニア・ナチュラル・リソーシズを、シェブロンが530億ドルでヘスを、オキシデンタルが120億ドルでクラウンロックをそれぞれ買収した。大手石油企業が独立系を傘下に置いたことで、同地域の原油生産量が今後、着実に増加することが見込まれている。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。