フーシ派は紅海で日本郵船が運行していた貨物船を拿捕した(提供:Houthi Military Media/ロイター/アフロ)
  • 米WTI原油先物価格は12月20日、前日比0.28ドル高の1バレル=74.22ドルで取引を終えた。一時70ドルを割り込む展開から反転している。
  • この傾向が今後も続くのか。少なくとも市場はフーシ派の活動激化に伴う地政学リスクを折り込み始めている。
  • 米国はフーシ派に対する牽制(けんせい)を強めるが、サウジアラビアは報復攻撃を懸念し米国と足並みをそろえない。米国とフーシ派の緊張が高まれば、原油価格は急騰する可能性もある。(JBpress)

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)はこのところ強含みの展開となってきた。12月20日の原油価格は前日比0.28ドル高の1バレル=74.22ドルで取引を終えた。

「米連邦準備理事会(FRB)が来年利下げを積極的に行う」との観測が相場の押し上げ要因になっていることに加えて、イエメンの親イラン武装組織フーシ派による紅海での商業船への相次ぐ攻撃を受けて供給途絶の懸念も強まっている。

フーシ派が貨物船を拿捕(提供:Houthi Group press Service/UPI/アフロ)

 今後の原油価格を占う上で、まずは足元の供給サイドの動きから見てみたい。

 ロシアのノバク副首相は12月17日、「今月から原油輸出の削減幅を日量30万バレルから35万バレル以上に拡大する」ことを明らかにした。ロシアは2024年第1四半期からの原油輸出量を日量50万バレル削減することを決めているが、削減幅の拡大を前倒しする。

 石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの大産油国が構成するOPECプラスは2024年第1四半期に日量220万バレルの自主減産を実施する予定だが、ノバク氏は「世界の原油市場は均衡しており、OPECプラスは直ちに行動を起こす必要はない」との認識を示している。

 減産によって原油価格を下支えしようとしているOPECプラスにとって目障りな存在になっているのが米国だ。

 米国の直近の原油生産量は日量1330万バレルとなり、過去最高を更新した。米国の原油生産の増加に貢献しているのはシェールオイルである。

 米エネルギー情報局(EIA)は18日、「2024年1月のシェールオイルの生産量は日量969万2000バレルになる」との見通しを示している。足元は若干停滞気味だが、生産量は高い水準で推移している。

カタールを訪問したオースティン米国防長官=左(提供:Tsgt. Alexander Cook/U.S Air/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)

 かつてOPECの宿敵だった米国のシェールオイルが世界の原油市場で再び存在感を強めており、OPECプラスは今後さらなる生産抑制を余儀なくされる事態が想定される。

 このため市場では、「2024年の原油価格は1バレル=100ドルを超える可能性は低い」との予測が支配的になっている*1。だが、中東地域の地政学リスク次第では、原油価格は急騰してしまうかもしれない。

*1Analysts Say Oil Prices Unlikely To Hit $100 In 2024(12月17日付、OILPRICE)

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。