- 原油価格の下落傾向が強まっている。サウジアラビアなどOPECプラスの一部が自主減産を打ち出したが、実効性に懸念が広がっている。
- ロシアのプーチン大統領が急きょ、中東を訪問して懸念の払拭に向けたアピールをしたが、市場関係者は冷ややかだ。
- もはや、フーシ派によるサウジアラビアの石油関連施設への攻撃といった地政学リスクを急上昇させる事態が生じない限り、原油価格は上昇に転じることはないかもしれない。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
12月7日の米WTI原油先物価格は前日比0.04ドル安の1バレル=69.34ドルで取引を終えた。6日連続で下落し、終値としては6月下旬以来、5カ月半ぶりの安値となった。
下落傾向が強まっているのは、11月30日に発表されたOPECプラス(石油輸出国機構=OPECとロシアなどの大産油国で構成)の閣僚級会合の決定に市場が失望したからだ。
2024年1月から日量220万バレルの自主減産を行うとしているが、実効性に疑問の声が上がっている。OPEC全体で取り組む協調減産と異なり、自主減産では目標が遵守されているかどうかを定期的にチェックする仕組みがないことがその理由だ。
これに対し、2024年から新たに自主減産を実施することを表明した国々からは減産実施を強調する発言が相次いでいる。クウェートとイラクの石油相は「来年1月からの自主減産を必ず実施する」と明言し、アルジェリアのエネルギー相は「自主減産の来年第1四半期以降の延長も排除しない」との決意を見せた。
OPECプラスの両雄であるサウジアラビアとロシアも、減産の実効性に対する懸念の払拭に躍起だ。
サウジアラビアのアブドラアジズ・エネルギー相は「OPECプラスの減産は、必要ならば来年第1四半期以降も絶対に継続できる」と強調した。ロシアのノバク副首相は「OPECプラスは来年第1四半期に減産を強化する用意がある」との認識を示した。
ロシアはさらにプーチン大統領自らOPECの主要メンバーであるアラブ首長国連邦=UAE(12月6日)とサウジアラビア(同7日)を訪問した。
この外遊は前述のOPECプラスの会合後、急きょ決定されたと言われている。プーチン大統領はサウジアラビアのムハンマド皇太子とともに「OPECプラスのメンバーは定められた生産目標を遵守する」よう求める声明を発出した*1。
*1:Russia and Saudi Arabia Call On OPEC+ Members to Join Production Cuts(12月7日付、OILPRICE)
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー。
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。