政策決定会合の後、記者会見するECBのラガルド総裁(写真:AP/アフロ)
  • ECB(欧州中央銀行)のシュナーベル理事に対するロイターのインタビューが金融市場で注目を集めている。タカ派と目される理事のハト派転向が読み取れるからだ。
  • だが、シュナーベル理事はもともと極端なタカ派ではなく、インタビューの中身もそこまでハト派的ではない。
  • ECBに関して言えることは「利上げ路線は停止」ということだけであり、当面は雇用・賃金情勢の息切れが確実に確認されるまで現状維持を続ける公算が大きい。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

 ECB(欧州中央銀行)のシュナーベル理事がハト派へ転向したのではないかと注目を集めている。これまで「ドイツ人ゆえにタカ派」との印象が先行してきたこともあり、シュナーベル理事の姿勢の変化を重く受け止める金融市場の関係者も多いようだ。

 ロイターのインタビューを受けたシュナーベル理事は、最初の質問でユーロ圏11月消費者物価指数(HICP)の予想外の下振れに絡めて「インフレ軌道に対して考え方は変わったか」と問われると、「事実が変われば、考えは変わる。貴方は違うのか(When the facts change, I change my mind. What do you do, sir?)」とケインズの名言を引用して返している。

 冒頭から「ハト派方向へ気が変わった」と読める発言である。その上で「最新のインフレ指標は追加利上げをさらにあり得ないものにしている」などと述べ、追加利上げ可能性の排除を確認している。為替市場では顕著にユーロ売りが進んでおり、ECBのピボットが完了したような雰囲気すら感じる。

ECBのシュナーベル専務理事(写真:DPA/共同通信イメージズ)

ドイツ高官の抗議辞任が続いたECBの政策理事会

 しかし、筆者はやや過大な反応ではないかと警戒している。そもそもシュナーベル理事はかつてのドイツ出身のECB理事と比較して極端なタカ派ではない。これは就任の経緯を踏まえ、当初からよく言われていた話だ。

 まず過去の経緯を知っておく必要がある。シュナーベル理事の前任は、同じドイツ出身の女性でラウテンシュレーガー氏であった。ラウテンシュレーガー氏の前職はドイツ連邦銀行副総裁であり、筋金入りのタカ派と言って差し支えない人物である。

 そのラウテンシュレーガー氏は2019年9月、2年以上の任期を残して辞任している。ドラギ前ECB総裁の緩和的な政策運営に対する抗議辞任という理解がもっぱらであった。

 そのラウテンシュレーガー氏の前任であるドイツ出身のアスムセン氏も2013年12月に6年の任期を残して途中辞任している。アスムセン氏のケースは抗議辞任ではなく「家族の問題」と言われているが、アスムセン氏の前任であるシュタルク氏も2011年9月に任期途中で辞任しており、これはドラギ体制に対する抗議辞任だったと言われる。

 ちなみに、2011年にはウェーバー前独連銀総裁も抗議辞任しており、近年ではその後任であるバイトマン前独連銀総裁も2021年10月にやはり任期を5年以上残して抗議辞任に踏み切っている。

「ハト派なECB vs. タカ派なドイツ」という二項対立は政策理事会の日常風景だが、数年に1回、堪忍袋の緒が切れたドイツ高官が離脱するということが繰り返されてきた。