楽天モバイルについて発表する三木谷会長兼社長(写真:つのだよしお/アフロ)

 2020年4月から本格的にサービスを開始した携帯キャリアサービス「楽天モバイル」は、「完全仮想化モバイルネットワーク」という独自の技術で、設備投資と運用コストを驚くほど下げ、驚異的な低価格化を実現した。

 楽天はさらに、「楽天シンフォニー」を通して仮想化技術のパッケージ「RCP」を世界中の通信キャリアに売ろうとしている。三木谷浩史社長は「RCPはアマゾンにとってのAWSのようなものになる」と展望を語る。

 楽天でいったい何が起きているのか。『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)を上梓した、三木谷浩史社長と親交の深いジャーナリストの大西康之氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──この本の装丁には、2014年7月に米アイダホ州サンバレーで行われた「サンバレー・カンファレンス」に向かう楽天の三木谷社長の写真が使われています。

大西康之氏(以下、大西):当時、私は日経BPの記者で、楽天の本を書こうとして取材をしている時に、「これからちょっとアメリカに行くけれど一緒にくる?」と三木谷さんから声をかけられたんです。彼のプライベートジェット機に搭乗して、同行取材をしました。

 装丁に使われている写真は、米カリフォルニア州、サンノゼあたりの空港で撮影したものだったと記憶しています。カンファレンスが催されるサンバレーは、そこからさらに車で少し移動したところにあります。

 サンバレーにも小さな飛行場はあるのですが、そこは昔からカンファレンスに招待されているビル・ゲイツやウォーレン・バフェットなど、アメリカの大富豪たちのジェット機でスペースが埋まっています。飛行機が空港に収まりきらないので、三木谷さんは最寄りの別の空港に停めていました。

 サンバレー・カンファレンスとは、民間投資会社のアレン&カンパニーが1983年から毎年開催している会議です。最初は、メディア界のモーグル(黒幕・大物)たちを招集する集まりでした。

 サンバレーはワイナリーやスキー場などもある一大リゾート地です。外から邪魔が入らず、セキュリティが確保しやすいこの地に家族を伴って集まり、バカンスを楽しみつつ、会議では大物たちがゴニョゴニョと話した内容から、数千億円級のM&Aなどが生まれる機会になっています。

 ところが、90年代の後半あたりから、この会議の常連たちが、勢いを増してきたテック企業などのトップたちの話も聞きたいと声をかけるようになり、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)などの創業者たちも参加するようになりました。メディア、IT、投資といった分野の名だたる大物たちが集うようになったのです。

 ちなみに、参加できるのはアレン&カンパニーから招待状をもらった(参加を許された)ゲストだけです。腰から銃をぶら下げたアロハシャツの屈強なセキュリティの人たちがたくさんウロウロしていたのが印象的でした。まるで映画の世界ですね。

──そこでの会話の内容は、あとから公開されるのですか?

大西:そこで話したことを少しでも外で話したら2度と呼ばれなくなります。その年に日本から招待されたのは、三木谷さんと、出井伸之さん(ソニー元会長兼最高経営責任者)だけでした。私は楽天の社員のふりをしてついて行きましたが、さすがに、実際のカンファレンスまでは参加していません。