- ポーランドの総選挙で、与党だった右派ポピュリズム政権が敗北。親EU派の穏健右派政権が誕生した。
- 一方で、同じ反EU・ポピュリズム政党が政権を担うハンガリーでは、政権与党の圧勝が続いている。
- 反EUで連帯していたポーランドとハンガリーだが、この差はどこから生まれているのか。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
2023年のヨーロッパは、経済面では、いわゆるスタグフレーション(景気停滞と物価高進の併存)が続くなど、低迷が著しく明るさに欠けた。一方で、政治面で印象的だった出来事として、人口3800万人をほこる中欧の大国ポーランドで、8年ぶりとなる政権交代が実現したことが挙げられる。
10月15日、ポーランドで総選挙が行われ、与党だった右派ポピュリズム政党の「法と正義」(PiS)が率いる右派連合(ZP)の獲得議席が過半数を下回り、敗北した。連立パートナーとして有力視された極右政党の「同盟」(Konfederacja)の獲得議席を合わせても過半数を下回ったため、大統領は野党連合に組閣を命じた。
その結果、ドナルド・トゥスク元首相が率いる穏健右派の市民連立(KO)を中心とする野党連合による新政権が成立した。トゥスク元首相は2014年から2019年の間に欧州理事会議長(いわゆるEU大統領)を務めたこともある親EU(欧州連合)派の政治家であり、ポーランドの親EU派の有権者をけん引してきた政治家である。
この8年間、PiSは反EUの立場を鮮明にし、EUに不満を持つ有権者を後ろ盾に政権運営に努めてきた。PiS自体は選挙後も第一党であり、引き続き同党を支援する有権者がポーランドの中に多いことは間違いない。とはいえ、反EUを前面に押し出したPiSの政治手法が有権者の過半の支持を得ることができなかったことも、また事実である。
ハンガリーではフィデス政権が続く
経済的には、PiS政権の下でポーランド国民の実質所得がそれほど増えなかったことが、PiS政権が敗北した一因だろう(図表1)。名目所得と実質所得の水準が乖離しているということは、ポーランドに強いインフレ圧力が生じたことを意味する。PiS政権は最低賃金の引き上げなどバラマキ政策を強化したが、結局、物価高が加速した。
【図表1 ポーランドの実質所得】
政治的には、隣国ウクライナから大量の難民が押し寄せたことが、かえって国内の親EU世論を巻き起こしたと考えられる。ポーランドとウクライナは歴史的に密接な関係にあり、ウクライナ難民の身上に同情するポーランド国民は少なくない。ウクライナ難民への対応を踏まえ、EUと協力関係を強化すべきだという有権者が増えたのだろう。
他方で、このポーランドの選挙結果に対して緊張感を高めているのがハンガリーである。