徴兵逃れで毎日数十人がウクライナから脱出

 ゼレンスキー氏のコミュニケーションスキルをもってしても米欧に「勝利は目前」と説得するのはますます難しくなっている。反攻開始から5カ月余が過ぎてもウクライナ軍は17キロメートルしか進んでいない。最大12万人死亡、18万人負傷(今年8月、米紙ニューヨーク・タイムズ)という大損害を出してもロシア軍はしぶとい。

 ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は英誌エコノミスト(11月1日付)に「北大西洋条約機構(NATO)の教科書通りなら4カ月もあればクリミア半島に到達し、戦うことができた。しかし、おそらく深く美しい(防御帯の)突破はないだろう」と前線が膠着状態に陥っている現実をあまりに正直に認めたため、ゼレンスキー氏に叱責された。

7月27日、ウクライナのドニプロペトロウシクで開かれた戦況についての会議の際、ともに写真に収まったゼレンスキー大統領とザルジニー軍総司令官7月27日、ウクライナのドニプロペトロウシクで開かれた戦況についての会議の際、ともに笑顔で写真に収まったゼレンスキー大統領とザルジニー軍総司令官(提供:Ukrainian Presidential Press Service/ロイター/アフロ)

 英大衆紙サン(20日付)のインタビューでザルジニー総司令官との意見対立を問われたゼレンスキー氏は「将軍たちが政治に関与することは国家の統一を危うくする」と危機感をあらわにした。次期大統領選(来年3月に予定されるが、戦争中のため延期される見通し)にザルジニー総司令官が立候補したら強敵になる。

「軍人が政治をやることを決めるなら、それは彼の権利だ。しかし政治や選挙を念頭に戦争を指揮するのであれば、言葉においても前線においても軍人としてではなく政治家として振る舞うことになる」と強く牽制した。大統領と総司令官の不協和音がここまで外に出るのは初めてだ。

 戦争が泥沼化する中で、ウクライナでも徴兵逃れが後を絶たない。

 英BBC放送(11月17日付)は、戦争が始まって以来、徴兵を避けるため危険な川を泳いで渡ったり、暗闇に紛れて国境を越えたりしてウクライナ国外に脱出した男性が2万人近くいると報じた。さらに2万1113人が逃亡を試みたものの、失敗した。ロシア侵攻後、18~60歳の男性はウクライナからの出国を禁止されたが、毎日数十人が国外脱出を試みる。

 来年11月に迫る米大統領選の世論調査でジョー・バイデン大統領はドナルド・トランプ前大統領に0.6~1.3ポイントのリードを許す。ニューヨーク・タイムズ紙(11月5日付)に掲載された世論調査では最も重要な激戦6州のうちアリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ペンシルベニアの5州でトランプ氏はバイデン氏に4〜10ポイントもの差をつける。