村尾:まず、経緯を年表にしてみました。
【コンペ要項発表からコンペ当選まで】
・2015年6月5日 カンプ・ノウ国際コンペ要項発表(工事費予算360Mユーロ)
・2015年7月6日 カンプ・ノウ国際コンペ 資格審査成果品提出(世界中から26社が応募)
・2015年7月17日 新国立競技場 Zaha案の白紙化を安倍首相(当時)が表明
・2015年9月1日 新国立競技場整備事業公募型プロポーザル公示
・2015年9月7日 日建設計はZaha Hadid Architectsと設計チームを組成し、新国立競技場公募型プロポーザルへの参加を表明
・2015年9月8日 カンプ・ノウ国際コンペ ファイナリスト8社発表
・2015年9月18日 新国立競技場公募型プロポーザルについて, 日建設計 + Zaha Hadid Architectsチームは建設会社との共同企業体の組成に至らず、プロポ応募を断念
・2016年3月8日 カンプ・ノウ国際コンペ当選
【バルセロナ事務所開設から本工事着工まで】
・2016年5月27日 日建設計バルセロナ事務所開設
・2016年5月~7月 プレジデンシャルボックス(VVIPスペース)設計業務
・2016年8月~2017年7月 都市計画協議資料作成業務
・2017年8月~2018年3月 基本設計業務
・2018年4月~2019年5月 基本設計追加変更業務
・2019年5月~2019年12月 実施設計業務
・2020年1月~2021年12月 実施設計追加変更業務
・2022年9月~2023年1月 施工者選定(トルコのLimak社に決定、工事費960Mユーロ)
・2023年3月~2023年8月 施工者提案に対するデザイン監修業務
・2023年6月末 本工事着工
──すごい、これだけでも今日来た甲斐がありました。いつか書籍をつくりたいと思っていたので、助かります(笑)。スタートは2015年6月なんですね。これは公開コンペなんですか。
村尾:はい。Spotifyカンプ・ノウは1957年にできた建物で、Francesc Mitjans(フランセス・ミチャンス)という人の設計です。これまで大きく2回増築が行われていて、席の間隔や通路の間隔が十分でないとか、客席の屋根がメインスタンド側にしかないとか、VIPのエリアが少ないといった問題がありました。それと、施設周辺の地下に駐車場があるのですが、駐車場スロープが広場の真ん中にあって、試合の時には車と人の動線が交錯してしまっていました。
参加を決めたのは“あの事件”よりも前
コンペは2段階方式でした。ファーストフェーズは実績やチーム体制、コンセプトなどの資格審査です。セカンドフェーズが具体的な案を提示する方式でした。要求はこういう内容です。
【コンペ方式】
2段階選定方式
1st Phase:資格審査(実績、チーム体制、コンセプト等)
2nd Phase:具体的な案の提示
【コンペ要求事項】
■座席数:9万9354席(1階席3.2万、2階席3.9万、3階席2.8万)
⇒10万5000席へ拡張(1階席2.0万、2階席3.8万、3階席4.7万)
■全席を覆う屋根の設置
■縦動線(エレベーター、エスカレーター増設)を含めた新しいファサードの提案
■観客のための空間の全面更新(VIPルーム、ラウンジ等)
■ミュージアムとメガショップの拡張
■改修工事期間中も8万席以上を確保(14.2万のソシオ会員のうち8.5万人は自席を持つ。)
■工事期間:2017年-2021年(コンペ時与件)
【審査員】
■FCB:Josep Maria Bartomeu, Susana Monje, Jordi Moix, Emili Rousand
■建築家:Juan Pablo Mitjans(現カンプ・ノウ設計者のご子息)
■カタルーニャ建築協会:Lluis Cameron, Arcadi Pla, Joan Forgas
■バルセロナ市:Aurora Lopez(都市計画局)
■FCBテクニカルチーム チームリーダー:William Thomas Mannarelli
一番難しい要件は、改修工事期間中も8万席以上席確保するという点です。FCバルセロナは「ソシオ」と呼ばれるファンによって運営されていて、ソシオは当時14万人ぐらいいたのですが、そのうち8万人くらいがSpotifyカンプ・ノウに自分の席を持っていました。だから、なかなか「工事中は別のスタジアムで試合をやります」というわけにいかない。