ニューデリーで開かれたG20でインドのモディ首相の後ろを通り過ぎるカナダのトルドー首相(9月19日撮影、写真:AP/アフロ)

カナダに根づくシーク教指導者を殺害命令?

 カナダ・バンクーバーで6月に起きた宗教指導者殺害事件へのインド政府の関与疑惑を巡り、カナダとインドの首脳同士が全面対決している。

 単なる売り言葉や買い言葉ではない。

 両首脳ともに政権維持にかかわる複雑な国内情勢を抱えている。

 すでに「外交戦争」の初期段階である外交官追放、渡航禁止へと進み、これからどこまでエスカレートするのか、予断を許さない。

 父親が元首相であるカナダの「サラブレッド」、ジャスティン・トルドー首相(51、中道左派)が9月18日、カナダ議会で爆弾発言したことからこの「外交戦争」は始まった。

 トルドー氏は、記者会見ではなく議会でこう述べた。

「カナダ国籍のシーク教指導者ハルディープ・シン・ニジャール氏(45)が6月にバンクーバー郊外で射殺された事件にインド政府が関与した疑いがある」

(同氏は疑惑の証拠については明らかにしていない)

「インド政府はこの問題に真剣に取り組む必要がある。インドを挑発したり、事態をエスカレートさせるつもりはない」

「しかし、カナダ国籍の人間がカナダ国内で外国勢力によって殺害されたことは国際法上、違法であり、法治国家としても容易ならざる事態だ」

 これに対し、インドで開かれた20か国・地域首脳会議(G20サミット)を成功裏に終わらせたばかりのヒンドゥー至上主義者・ナレンドナ・モディ首相(73)は「馬鹿げている」と否定声明を出した。

 さらに間髪を入れず、対抗措置として、インド駐在のカナダ外交官の国外退去を命じた。

 9月20日にはカナダでのインド人へのヘイトクライム(憎悪犯罪)*1が増えているとして、カナダ渡航を控えるよう注意喚起した。

 事実上の渡航禁止令だった。

*1=米国やカナダではアジア系に対するヘイトクライムが急増。その理由は中国に対する憎悪観の高まりで、それが日系やインド系などにも波及している。