中国・習近平国家主席が、ロシア・ウクライナ戦争の和平仲介をしようと前のめりになっている。3期目に入って親ロ外交に大きく舵を切っており、プーチン大統領の立場を守ろうとしている。「中国は平和の使者」「米国は戦争屋」といったイメージを流布する背景には、どのような思惑があるのだろうか。
JBpressの人気コラムニストであるジャーナリストの福島香織氏は、こうした動きは台湾有事への布石であると読み解く。福島氏が上梓した『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所)から一部を抜粋してお届けする。(JBpress)
地域の小国が大国の対立に巻き込まれる戦争
2022年2月にロシアが仕掛けたウクライナ戦争はすでに1年を超え、ひょっとすると3回目の冬を迎えるかもしれない、という欧州連合(EU)の危機感を利用するかたちで、中国はロシアとウクライナの和平協議を斡旋できる影響力をもてるというそぶりを見せ始めた。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、台湾の安全保障と無関係のようでいて、深く関係している。ロシア・ウクライナ戦争の本質はロシアによるユーラシアの安全保障の枠組みの再構築を目指すものであり、台湾有事は中国によるアジア・太平洋の安全保障の再構築を目指すものだ。ともに地域の小国が大国の対立に巻き込まれるかたちの戦争ともいえる。ウクライナの場合はロシアvs米国・北大西洋条約機構(NATO)であり、台湾の場合は中国vs米国の対立がある。
ウクライナは一方的に侵略された被害者側であり、巻き込まれた側であり、台湾も中国から一方的に武力統一の危機にさらされている。だからロシア・ウクライナ戦争において台湾世論はウクライナに非常に同情的で、多くがウクライナ勝利を願っている。ウクライナはもともと親中的な国柄であり、ゼレンスキー大統領もかねて台湾は中国の一部という認識を示していたが、中国がロシア・プーチン体制寄りなのを見て、ウクライナ議会には台湾友好会派が発足している。
歴史的に過去に自国の領土であった(あるいは一方的に領土と見なしていた)という理由で武力侵攻し、占領して自国領土にしてしまうという行為が1度許されるならば、今後、2度、3度と世界各地で同様の侵略を許してしまう可能性が高まる。侵略戦争の時代が幕を開けてしまうという意味でも、ロシア・ウクライナ戦争の決着の在り方が台湾の安全、そして世界の安全保障の枠組みに関わってくるという意味でも、ウクライナと台湾は遠く離れていてもつながっているのだ。