ただ、ジャニーの性加害については、1999年に『週刊文春』がこの問題を報じ、ジャニーと事務所が文藝春秋を訴えた裁判で、ジャニーの性的虐待が認定されている。噂のレベルではない。

 会見に登場したタレントの2人のいまがあるのも、ジャニーのお陰だ。ジャニーがいなければ、いまの2人もなかった。どうしても彼らの人生には、ジャニーがついてまわる。それは他の所属タレントも同じだ。

2019年7月、ジャニー喜多川の死去を報じるスポーツ新聞各紙の一面。サングラスをしていない珍しい喜多川の写真の横には「天国へ」「芸能界の巨星」など賛辞が並んだ(ゲッティ/共同通信イメージズ)

 彼らにジャニーとの過去を断つことができるのだろうか。オウム信者の中には、麻原彰晃を捨て切れずに、いまも信仰の対象としている人たちもいる。それがオウム真理教の後継団体の「アレフ」だ。

オウム真理教はアレフに名を変えた、だがジャニーズは…

 さすがに一連の事件を認めた教団は、オウム真理教から「アレフ」に教団名を変えた。ところが、ジャニーズ事務所は名前を変えていない。新社長が「鬼畜の所業」という罪を犯した張本人の名前を冠したままでいる。そこに懐疑的になって、“ジャニーズ離れ”を起こす企業も少なくない。

 企業にしてみれば、人権デュー・ディリジェンス(Due Diligence)が問われていることになる。企業活動における人権リスクを避ける継続的な取り組みのことで、強制労働やハラスメントなど人権を蹂躙することがないように、適切な対策をとらなければならない。子会社や関連会社を含むグループばかりでなく、サプライチェーンで発生する人権問題も含まれる。

 企業による人権尊重の取り組みは、2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択されて、国際的な潮流となっている。ジャニーズの性加害問題について、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家が7月に来日し、調査していたことは、まさにその象徴だ。

 被害者が数百人にも及ぶと見込まれる芸能事務所の創業者の性加害事件。しかし、前述のように20年前には裁判でジャニーの性的虐待が認められていながら、そのまま放置して所属タレントを商業目的に利用し、ここへきて手のひらを返すスポンサー企業側にも、負い目や後ろめたさはないのだろうか。

 その企業側にしてみれば、自社のCM放送を中止しておきながら、所属タレントの出演するテレビ番組のスポンサーになるなど、考えられない。ジャニーズタレントのテレビ出演にも、支障がでてくるはずだ。ジャニーの性的虐待の事実認定を報じなかったテレビ報道のあり方もさることながら、いまだにジャニーズタレントで視聴率を稼ごうというテレビ局の「ビジネスと人権」の問題も問われていくことになるはずだ。

(文中敬称略)