2.中国人が精神的ショックを受ける理由

 しかし、それは仕方がないように思われる。

 日本経済は1990年のバブル経済崩壊以降、厳しい長期経済停滞に陥った。欧米諸国も2008年のリーマンショック後に深刻な経済停滞を経験した。

 これらを経験した日米欧諸国の人々は資産バブル崩壊後の厳しい経済停滞を自らの実体験として知っている。

 それに比べると足許の中国経済の悪化はまだそのレベルまで達していないが、現在、多くの中国人のマインドは極めて悲観的である。

 その理由は中国人が1990年以降一度も厳しい経済停滞を経験していないことにある。

 1989年と90年は天安門事件等を背景とする経済政策運営の転換もあって、実質GDP成長率がそれぞれ4.2%、3.9%と2年続けて5%を割った。

 しかし、その後1991年から2010年までの20年間は平均10.5%の実質成長率を達成し、2011~19年も平均7.3%に達した。

 この間、実質成長率が最も低かったのは2019年の6.0%である。

 その翌年から新型コロナウイルス感染症拡大の影響でほぼ3年間、経済が停滞した。

 この3年間の停滞は新型コロナ感染拡大という特殊事情があったので、不可抗力と考えられていた。

 その経済停滞の下でも、2020年と21年はゼロコロナ政策の成功により、世界の先進国に比べて群を抜いて良好な経済状態を保持していた。

 それが急速に悪化したのは、感染力の強いオミクロン株が流行してゼロコロナ政策がうまく機能しなくなった2022年以降である。

 ゼロコロナ政策は2022年12月に突然解除され、中国は一時的な混乱を克服して2023年2月下旬以降、経済が順調に正常化に向かっていたように見えた。

 中国人の多くがコロナ前の2019年のレベルくらいにまでは改善するだろうと期待したのは自然である。事実3月頃までは経済は比較的順調に回復していた。

 しかし、4月以降、様々なマイナス要因に直面し、現実はそうではないことに気づき始めた。

 それが決定的に明らかになったのは、7月中旬に第2四半期(4~6月)のGDP(国内総生産)など主要経済指標が公表された時である。

 4月に第1四半期(1~3月)の指標が発表された時点では、第2四半期も順調な回復が続くと見られていた。

 上海ロックダウンの影響による前年同期の低成長(2022年第2四半期の実質GDP成長率は前年比+0.4%)の反動を考慮すれば、実質GDPは前年比+8%を超える可能性もあるという強気の見方も少なくなかった。

 しかし、実際に発表された数字は6.3%と、直前の市場予想(6.9~7.0%)をも大幅に下回る数字だった。

 特にモノの消費と不動産関連の指標が悪化した。

 これらの数字が多くの中国人に精神的なショックを与えた。通年で実質成長率が5%に達しない可能性も懸念されている。

 もちろん実体経済の回復も鈍かった。

 しかし、冷静に見れば、中国経済の現状は日本の1990年代やリーマンショック後の欧米経済ほど悪化してはいない。以下ではその点について説明する。