3.中国経済日本化論の誤解
1990年以来本格的な経済停滞を経験していなかった中国人が、新型コロナ感染拡大が終結したにもかかわらず予想外の経済減速に直面すれば、中国経済の先行きに対して悲観的になるのは十分理解できる。
日本でも1973年以降の第1次、第2次石油危機を克服した1980年代前半、似たような精神的ショックを経験している。
第1次石油危機発生直前の1972年度の日本経済の実質GDP成長率は9.1%だった。
しかし、2つの石油危機を克服した後、1980年代前半の実質成長率は3~4%前後へと大幅に低下したため、当時の日本でも日本経済の先行きに対して悲観論が広がった。
それもあって、日本はその後、過剰な景気刺激策によってバブル経済を招いた。
中国政府はこの日本の失敗を繰り返さないよう1990年代以降、日本の経験を徹底的に学ぶ努力を続けてきた。
それが現在の慎重な経済政策運営の要因の一つとなっている。
今回、第2四半期の数字が発表された直後から日本化論が広がったのもこうした背景があるためである。
しかし、1990年代の日本経済の状況は現在の中国経済とは比較にならないほど厳しかった。
不動産市場は東京、大阪、名古屋などの主要都市を含めて総崩れになったほか、株価も暴落した。
金融機関は貸出を回収し、企業は設備投資と雇用を削減し縮小均衡に向かった。
現在の中国経済を見れば、銀行貸出、設備投資はプラスの伸びを維持し、雇用も若年層を除けば全体として概ね安定を保っている。
1990年代後半以降日本が経験した大手銀行の破綻リスクについても中国でそうした心配をしている人はいない。
中国人に5大銀行の工商銀行や建設銀行が破綻すると思うかと問えば全員が即座に否定する。
このように説明すると中国人も日本化はしていないことを理解してくれるが、それでも足許の悲観論は消えていない。