未来の読者を育てながら、まちをつくる
安藤はBSJの活動を地域のまちづくりだと位置づけている。単に書店を開業するのではなく、その地域の人たちが誰でも集い、居場所になるような場所を作る。そこから対話が生まれ、町の活性化のためのアイデアが生まれるような「Future Center」のような役割がこれからの書店には求められるという。
「未来の読者を育てながらまちづくりの中核となるような場所としての書店をつくる」。BSJとして地域に書店を復活させる活動をしながら、安藤がかつて自分自身が書店を営んでいた地域、東京・谷中で再び書店を、と立ち上げたのが前回で紹介した「Books & Coffee 谷中 TAKIBI」だった。


だが、書店経営のプロである安藤でも、TAKIBIを始めるときに、新刊書店という選択肢はなかったという。新刊を販売する書店を始めるには物件を借り、書店用に改装をするための費用だけでなく、最初に揃える本を購入する資金が必要となる。店の規模にもよるが、少なくとも1000冊規模で揃えようとすると、数百万円から1000万円がかかる。
新刊書店を開業するハードルの高さは初期投資の問題も大きいが、本の利幅が小さいことも挙げられる。本だけを売って経営を持続的に成立させることが困難なため、最近では利益率のいいカフェや雑貨店を併設する書店も増えてきた。
「書店経営ってかつては雑誌が売れていたから成り立っていた部分が大きいんです。さらに最近では人々の可処分所得が減っている中で、紙の値段が上がり新刊本の値段自体が上がっているので、1人が買える本の冊数は少なくなっている。本好きの人でも文庫本まで待つという人も増えているし、電子書籍もあるから、書店が新刊本だけで経営していくのはより厳しくなっている」
それで「棚貸し」という形を選択したのだが、もう一つの理由は、TAKIBIから徒歩数分のところにある往来堂書店で買った本を読み終わったらTAKIBIで売って、その売り上げでまた往来堂に行って新刊本を買う——そんな本のエコシステムができればとも考えたのだ。そこまでしてでも、新しい読者を開拓していかないとますます本を読む人は減り、出版業界はやせ細ってしまうという危機感が、安藤にはある。