東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を「2030年までに30%以上にする」という目標を政府が掲げたものの、日本のジェンダーギャップ指数は、先進国の中で最低水準。多様な人材の活躍の場を作り、ビジネスの成長機会を生み出し、社会を活性化させることは、企業こそ担える役割ではないだろうか。

 本連載では、『AERA』編集長、Business Insider Japan統括編集長を歴任し、ダイバーシティや働き方をテーマにした講演を数多く行う著者が、資生堂、積水ハウス、丸井グループなど先進企業の変革の取り組みを豊富な取材で描き出す。第1回は、海外とは対照的に一向に縮まらない日本の男女格差と、反対にコロナという未曾有の事態で変化し始めた働き方や若い世代の意識変化を紹介する。

(*)当連載は『男性中心企業の終焉』(浜田 敬子著/文藝春秋)から一部を抜粋・再編集したものです。

<連載ラインアップ>
■第1回 ジェンダーギャップ指数121位で先進国最低水準、時代遅れの日本の実態とは?(本稿)
第2回 「資生堂ショック」は女性の働き方をどう変えたのか?
第3回 イクメン休業に女性イキイキ指数、積水ハウスと丸井は男性育休をどう進めたか


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はじめに

 その年のジェンダーギャップ指数の発表にソワソワするようになったのは、この3、4年のことだろうか。この指数はスイスに本部を置く非営利団体「世界経済フォーラム」が毎年発表する世界のジェンダー格差を示すものだ。毎年発表される時期がバラバラなので、メディアでジェンダー問題やダイバーシティに関する取材をしている記者(その多くは女性記者という現実)の間で、「今年はいつ発表になるのか」、そして「今年の日本は何位なのか」が話題にのぼる機会が急速に増えている。

 2022年7月に発表された順位は116位(146カ国中)。2015年、日本の順位は先進国の中では最低水準だったもののまだ145カ国中101位だった。それが2019年に110位から121位に急落したあたりから、にわかにこの指数が注目を集め、大きなニュースになるようになった。

 女性活躍や多様性、D&I(Diversity & Inclusion)……この10年、様々な言葉で女性の地位向上や働きやすさへの支援などが議論され、後押しされてはきたはずなのに、なぜ順位は後退し、日本の男女格差は縮まらないのか。
 日本は失われた10年が20年になり、すでに30年と言われている。長きにわたる経済の低迷、経済成長の停滞状態を指して、こう言われているが、この「失われた」という感覚こそ、男性目線ではないかと感じている。

 私は1989年、男女雇用機会均等法が施行されて3年後に朝日新聞社に入社した。働き始めた当初は、今であれば完全にブラック企業と認定されるであろう新聞社の働き方に馴染めず、何度も脱落しそうになった。だが、その時期を過ぎると、今度はその働き方やヒエラルキーの強固な組織で働くことに馴染み過ぎて、自身が女性であるということすら忘れ、男性中心の組織に完全に同化した。弱音を吐いたり、セクハラを訴えたりすることは、「働く資格がない」とすら思っていた。

 私が女性の問題に関心を持つようになったのは、1999年にAERA編集部に異動してからだ。すでに編集部に在籍していた1年上の女性の先輩記者たちが毎週毎週、女性が抱える生きづらさや働きづらさについての企画を提案し、記事にしていた。私は当初こんなことがニュースになるのかと冷めた目で見ていたが、これが多くの読者の共感を集め、AERAの売り上げも伸びていた。

 その時に気づいたのだ。あまりにも自分が働いてきた環境や時代に鈍感で無関心ではなかったのか。女性の問題は「ニュースではない」という自身の感覚こそが、まさに男性の発想そのもので、入社10年で感受性も問題意識も摩耗した自身を恥じた。その後私は、退職していた大学時代の同級生などの元を訪ね、その言葉に耳を傾けるようになった。
 AERAに在籍した17年間、その後移籍したオンラインメディア「ビジネスインサイダージャパン」、そしてフリーランスになってからも、私は幅広い年代の多くの女性たちを取材し続けてきた。

 まだ「寿退社」という言葉が当たり前で結婚や出産が即退職を意味していた時代に辞めていった同世代。就職氷河期で女性の採用が一気に絞られ100社回って1社からも内定をもらえなかった女子学生。長時間労働の職場で働く夫の働き方を変えることができずワンオペ育児に疲れ果てていた女性。どれほど成果を出しても後輩男性に先を越されていく女性。夫の転勤で退職し、再就職をしようにも正社員としての就職先がなかった女性。派遣社員で働きながら年齢が上がるほど条件を下げられギリギリの生活をしていた女性。退職後に離婚してシングルマザーになり、コロナで一気に経済的困窮状態に陥り途方に暮れる女性……。

 女性たちを取材していると、一体何が「失われた」のかと思う。もともと参加の機会も、再チャレンジの機会もなかったのだから。均等法や育児休業などの法制度ができても、「女性活躍」という耳触りのいい政策ができても、大きく状況が変化し、改善しているとはとても言えない。その結果が116位という体たらくで、今ではジェンダー後進国と言われるまでになったのだ。