相変わらず日本では女性の活用が進まない。政界を見ると、2021年日本の国会における女性議員の割合は約10%程度。ビジネスの世界でも2022年上場企業の女性役員割合はわずか9.1%*1と言い訳のできない状況となっている。この現状を、多くの企業の経営に深く関わるEY新日本有限責任監査法人理事長の片倉正美氏はどう見ているのか。女性トップとしての思いと女性リーダーを増やすための現実的な施策を語ってもらった。
※1:2022年7月末時点 東洋経済新報社「役員四季報」調べ
「多様性を認める」だけでは不十分
――片倉さんは日本で初めて大手監査法人の女性トップとなられました。片倉さんご自身は、会社組織における女性や女性リーダーの活躍の現状をどう見ていますか。
片倉正美氏(以下敬称略) 私が働き始めた三十数年前には、社会の中で女性に対する差別や偏見が根強くありました。私自身も、嫌な思いをしたり、仕事において制約を感じたりすることもありました。
しかし近年では日本でも、女性の活躍やダイバーシティへの取り組みが徐々に進んでいます。女性の登用をいかに増やすかを具体的に検討する企業も増えています。
女性の社会進出が進む中で、女性の活躍がビジネスにプラスの影響を与えることを示唆する調査結果も出てきています。いまある調査結果からは、女性活躍と業績との本当の因果関係を知るのは難しいものの、少なくとも女性の活躍を進めている企業の方が、業績が良いということは言えそうです。こういうデータが増えていけば、さらなる意識改革にもつながるのではないかと見ています。
私は、女性リーダーを増やせば、企業はもっと強くなると思っています。女性を登用しないということは、世の中の才能の半数を無駄にするのに等しい。優秀な人材を雇おうとするときに女性を発掘しないのは単純にもったいないと思います。
いわゆるダイバーシティについて、私が重要だと考えているポイントがあります。それは、多様な人たちを互いにリスペクトして受け入れる土壌、いわゆるインクルージョンです。たとえ多様性を認めたとしても、インクルージョンが無いとむしろ多様な人が勝手なことをするだけで、組織としてはマイナスになりかねません。ダイバーシティによってイノベーションを起こしている企業の根底には、インクルーシブなカルチャーがあると思います。
――インクルーシブな組織を率いるリーダーが心がけるべきことはありますか。
片倉 私が個人的に大切にしているのは、自分の言葉で思いを語ることです。
現代は「VUCA」(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)と言われるように、極めて将来が見通しにくい時代です。課題を解決して一歩ずつ前に進むには、価値観の違う多様な人からいろいろな意見を聞き、皆で合意形成をして向かうべき方向を選択していかなければなりません。
話し合って決めたことを前に進めるには、エンパシー(共感)が必要であると思います。共感を呼び起こさないと、組織全体が1つになるのは難しいでしょう。リーダーが、組織が向かうべき方向を語るときに、人から借りてきた言葉では絶対に刺さらない。ですから私は常に、自分の言葉で語ることを重視しています。